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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アメリカ太平洋艦隊横須賀配備艦艇即応性などに懸念,実任務増大で交戦訓練証明の更新困難

2017-10-12 22:42:19 | 防衛・安全保障
■海上自衛隊も実任務増大
 本年海上自衛隊は実任務増大により広報行事である全国の展示訓練を中止しました。しかし、実任務増大は同盟国アメリカにおいて看過できない問題を生んでいるようです。

 CNNが米海軍機関紙ネイビータイムズを引用し報じたところでは、アメリカ海軍が横須賀へ前方展開させているミサイル巡洋艦シャイローについて、深刻な士気低下が問題となっているとのこと。内部調査によれば、シャイローを“浮かぶ刑務所”として酷評する乗員もおり、士気旺盛との回答は37%、乗艦を信頼するとの回答は僅か31%であったとのこと。

 太平洋艦隊では今年に入り短期間で衝突事故や座礁事故等が相次いでおり、艦隊全体の能力低下が深刻とされてきました。ミサイル巡洋艦シャイローの問題は艦長の適正不調によるものとされますが、イージス艦、同盟国日本にとっては北朝鮮核ミサイル恫喝という現状において特に同盟国アメリカのイージス艦の能力は非常に重要なものとなっています。

 CNNでは加えて“米海軍の太平洋艦隊、即応性などに懸念 政府監査院が分析”として太平洋艦隊全体に艦隊作戦能力の即応性と安全性に対し、アメリカ政府監査院GAOが懸念を示す報告書を作成している事を報じています。この根拠は、アメリカ海軍が対潜戦闘や対空戦闘とダメージコントロール等の能力を検証する交戦訓練証明書失効に依拠しています。

 交戦訓練証明書とは、日本の年次検定と同じもので、十数種類に分け、一定期間ごとに演練と実訓練を経て各種戦闘及び航海技術等の水準を一定以上としている証明となるものですが、太平洋艦隊の、特に日本を母港とする艦船について期限切れが目立ち、ミサイル駆逐艦及びミサイル巡洋艦11隻のうち8隻で機動性や航行技術、空中戦や水中戦の証明書が期限切れとなっていたとのこと。

 日本に前方展開するアメリカ海軍水上戦闘艦11隻のうち、実に8隻が必要な交戦訓練証明書を更新できていないという事は同盟国として非常に憂慮するものですが、何故日本に前方展開している艦艇にこうした傾向が顕著なのでしょうか。この要因として提示されているものが、“過密な作戦スケジュール”であるといい、即ち実任務が多すぎ訓練できない。

 実任務の増大により第一線部隊が作戦任務に忙殺され、必要な訓練を行う事が出来ない、というものですが、アメリカ海軍が横須賀前方展開の艦船により実施している任務は、第一に北朝鮮周辺海域での警戒監視任務、第二に南シナ海海域でも中国軍動向監視及び航行の自由作戦、第三に西太平洋での北朝鮮弾道ミサイル発射警戒、等が挙げられるでしょう。

 ミサイル巡洋艦シャイローでの問題も、この点と必ずしも無関係とは言い難く、過度なローテーションによる乗員勤務の過酷化、更にアメリカ海軍全体の水上戦闘艦及び艦隊指揮官練成への教育訓練体系への影響顕在化等、結局のところ実任務忙殺訓練軽視という悪循環が現状にまで達したともいえるものです。しかし、忘れてならないのは日本の状況です。

 海上自衛隊も専守防衛のもと、北朝鮮周辺海域での警戒監視任務、東シナ海海域でも中国軍動向監視、日本海での北朝鮮弾道ミサイル発射警戒、という任務にあたっている他、左近はロシア海軍の北方海域での行動活性化という不確定要素があり、この任務へ護衛艦を派遣しています。即ちアメリカを悩ます過密な作戦スケジュールは他人事ではありません。

 アメリカ海軍の現状は、ミサイル駆逐艦フィッツジェラルド衝突事故を始め、限られた艦艇が事故により修理へ第一線を離れている為、残る艦艇にさらに負担が重くなる悪循環へ陥っていますが、これら一連の要因が実任務増大にあるのならば、実任務増大は日米共通の問題です。我が国としては、一隻当たりの負担を軽減すべく護衛艦を増強するか、集団安全保障の枠組へ同盟国との防衛協力を強化する等、対策を取らなければ、アメリカ海軍と同じ問題が顕在化しかねないといえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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