北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

検証4.14シリア攻撃:米英仏有志連合限定空爆へ抗するシリア防空軍と巡航ミサイルの意味

2018-04-19 20:11:25 | 国際・政治
■次段階も示唆の米英仏有志連合
 シリア防空軍の防空部隊が健在である中での巡航ミサイルの実による限定空爆は軍事目的を達しつつ、一部のミサイルは撃墜される事となりました。

 シリア軍はロシア軍の軍事援助、特に装備のみならず部隊編成や教育訓練においても大きな影響を受けています。そして現在、ロシアは自衛隊と並び地対空ミサイルの密度が非常に高い。日本の自衛隊はアメリカ陸軍と比較しますと地対空ミサイルが非常に充実しています、性能も高いとされるのですが、それ以上に装備密度が高く特殊とさええいます。

 シリア軍は陸海空軍とは別に防空軍を組織し防空任務に当る。ロシアより軍事援助を受け、射程150kmのS-300地対空ミサイルが高高度まで無人機や爆撃機の接近を許さず、射程37kmのSA11/9K37,低空目標は射程12kmで垂直発射式即応性の高い9M33SA-15/9M330や前型SA-8/9K33、S-1やSA-19複合防空システム、ZSU-23自走高射機関砲等が揃う。

 シリア防空軍は3万6000名規模、シリア陸軍が2015年の人員規模で12万5000名規模、シリア空軍が内戦前の2011年で6万名規模といいますので、防空軍はかなりの規模です。シリア内戦ではイスラエル空軍による予防爆撃などはありましたし、シリア民主軍との戦闘で巻き添えを受けた可能性はありますが、ロシア軍援助で能力が維持されたのでしょう。

 日本の地対空ミサイル部隊を見ますと非常に濃密です。航空自衛隊が射程100km以上のペトリオットミサイル、陸上自衛隊が射程60km以上という03式中距離地対空誘導弾、基地防空用と野戦防空用に射程20kmの基地防衛地対空誘導弾、11式短距離地対空誘導弾、旧型で射程15kmの81式地対空誘導弾、射程5km第一線用の93式近距離地対空誘導弾など。

 ソ連は冷戦時代、自衛隊とは比較居ならない程の高水準の野戦防空部隊を有していました。自衛隊は冷戦時代、1980年代に国産地対空ミサイル大量配備が開始されるまでは改良ホークやナイキ等限られていたのですが、改良ホークを一個大隊取得、または改良費用だけで73式装甲車250両分、と高い費用を要し、限られた予算をミサイルに振り分けた事は確か。

 日本の地対空ミサイルが濃密で、しかも日本全土に配備されるほどに数が多いのは第二次世界大戦中に制空権を奪われ陸上部隊や飛行場と工場や市街地までもが散々航空攻撃により破壊され、人口密集地域に絨毯爆撃から核攻撃まで受けた反省から、防空を重視した為です。そしてシリア軍も同様に四度の中東戦争等でイスラエル空軍に散々空襲されました。

 シリア軍はロシア製地対空ミサイルを装備しています、そしてロシアはソ連時代の第二次大戦中にドイツ空軍に散々地上部隊や市街地と工業地帯を攻撃され、日本と同じように第二次大戦中に叩かれた厳しい経験を基に対空部隊を強化するという指針が組まれ、その基盤の下に今日までの装備体系や部隊体系を培ってきました、実際その能力も規模も大きい。

 準備期間があったのも大きかった、シリアの化学兵器使用に対し、トランプ大統領は一線を越えたとして重大発表を行うとしていました。この期間、即ちシリア軍が化学兵器を非戦闘員の無差別殺りくに使用した事が国際社会に露呈した時点で昨年2017年4月に実施されたような軍事制裁が行われる可能性が生じ、防空砲兵部隊を戦闘配置へ展開できました。

 限定空爆以上の軍事制裁は、そもそも米英仏有志連合も今回考えていなかったと思われます。地中海の空母部隊展開やイタリアへの空軍部隊展開も通常規模、防空制圧任務を行った場合のリスクがあり、シリア防空軍はロシア軍の援助で維持されている為防空制圧任務を行えば当然、軍事顧問として派遣されているロシア軍への損耗も無視できなくなります。

 米英仏有志連合の限定空爆は、それならば意味は無かったのでしょうか、考えてみますと逆です。神経ガスを使用したならば即座に介入する意図を示唆し、アメリカはシリアの人権問題へ無関心ではないことを示しました。そして巡航ミサイルは首都ダマスカスを射程に収めシリアのどこでも攻撃が可能で、シリア防空軍はその分全土を警戒せねばならない。

 アメリカは今回保有する多数の巡航ミサイルのごく僅かな規模、オハイオ級巡航ミサイル原潜やタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦一隻分にも満たない巡航ミサイル攻撃を行っただけですが、シリア軍はこの規模のミサイル攻撃を何度も繰り返された場合、保有する対空ミサイルは短期で払底します。そしてロシアの地対空ミサイル援助も無限ではありません。

 今回は限定空爆でした。しかし、シリアがこれからも神経ガス等の大量破壊兵器による無差別攻撃を行うならば、その都度こうした限定空爆を行う事を、昨年四月のトマホーク攻撃に続いてアメリカが強調し、今回は米英仏の有志連合で実施したことは意味があります。大量破壊兵器使用が繰り返されれば限定空爆では終わらない可能性もあり、一度は廃棄した大量破壊兵器をシリアがどう取得したのかを含め検証し、大量破壊兵器の完全廃棄とシリア内戦の終結を願ってやみません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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