■軍事制裁“限定空爆”とは何か
土曜日4月14日に実施された米英仏有志連合によるシリア攻撃について、これがどの程度効果があったのかを見てみましょう。
米英仏有志連合によるシリア攻撃、B-1爆撃機やイージス艦からの巡航ミサイル攻撃、イギリス空軍のトーネード攻撃機がキプロスのイギリス軍基地より進出、フランス空軍もラファール戦闘機を派遣し巡航ミサイル攻撃を行いました。トランプ大統領は攻撃成功、と強調しましたが、同時にシリア政府も巡航ミサイル多数の撃墜を発表、勿論どれだけ実際に撃墜したかは検証が難しいのですが、こう主張できるのは何故でしょうか。
トマホーク巡航ミサイルは潜水艦やイージス艦から発射し、GPS誘導に加え慣性誘導装置と地形追随装置を応用し超低空を飛翔、ピンポイントで命中するとの高性能が謳われ、実際に自動車大の目標、例えば電波塔基部や航空機シェルターの入り口部分に弾薬庫等の硬化扉に正確に命中させ、454kgの弾頭と残った個体燃料を用いて破壊する能力があります。命中精度の高さと共に改良型が絶えず開発、実戦での性能が高い。
アメリカ政府は攻撃成功を強調しつつ、シリア政府はミサイル迎撃成功を誇示している。こうしますと、どちらかが嘘を言っているようにえますが必ずしもそうではありません。この背景には、巡航ミサイルのみによる限定攻撃の特性がよく表れているといえるかもしれません。理由は第一に巡航ミサイルによる攻撃のみであった事、第二にシリア攻撃を国際社会が神経ガス使用を理由に制裁を示唆していた事、この二点を理解すると背景が判る。
制裁を示唆していたという降車、つまりシリアには防空体制を準備する時間があった。一方で前者の方、巡航ミサイルだけの攻撃であった、考えてみますと特殊です、無人攻撃機を使っていない。米軍には優秀な無人攻撃機があります、例えばMQ-9無人攻撃機、映画シンゴジラ等で米軍が使用し、パキスタンでアルカイダ系武装勢力に、イラクにてISIL系武装勢力に使用している攻撃機で飛行時間21時間、GPS誘導爆弾や対戦車ミサイルを六発程度搭載できます。
MQ-9を攻撃に使用できたならば、複合光学映像装置により確実に目標を米本土の司令部が確認しつつ目標だけを攻撃できます、巡航ミサイルでは発射時点で大まかな目標を設定する必要がありますし、目標を設定してもミサイルが飛翔している時間、トマホークはジェット旅客機並の高速なのですが、ミサイル到達までに目標が移動してしまう事もあり得る。そして万一撃墜されても無人ですので操縦士が怪我をする心配もありません。
しかし、トマホークが使用された背景には、MQ-9無人攻撃機ではシリア軍の防空システムにより撃墜される可能性があった為でしょう。無人機をドローンと表現しますが、ドローンとは軍事用語で標的用無人機を意味し、自衛隊も1950年代から使用しています、つまり対空ミサイルの射程内ならば落とすのは難しくは無い。MQ-9は高度13000mという高高度を飛行しますが、自衛隊にも航空自衛隊のペトリオットミサイル、陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾、改良ホークミサイル、海上自衛隊のスタンダード、落とせるミサイルは多い。
自衛隊でも準備万端の状況ならば同規模の攻撃があっても、もっと効果を挙げられたでしょう。例えば紀伊半島沖にミサイル爆撃機を進出させる中国軍が、我が国へ同様のミサイル攻撃を行った場合、恐らくミサイルの大半は航空自衛隊と陸上自衛隊により撃墜される事でしょう、こう表現しますと巡航ミサイルの威力はそれほど大きくないように思えてくるのですが、これは空爆ではなくミサイル攻撃という限定空爆における限界を端的に示したもの。
防空制圧任務、という、本格的な空爆を行う際に必ず実施する任務があります。今回は限定空爆ですので防空制圧を行わずミサイル攻撃を実施している。防空制圧任務とは、地対空ミサイルや防空部隊とこれらを結ぶ通信網そのものを破壊する任務で、非常に危険なのですが囮の航空部隊、1991年湾岸戦争のころはF-4G戦闘機、1998年ユーゴ空爆の時はF-16CV戦闘機、を実際に飛行させ、迎撃する地対空ミサイル部隊を炙り出し攻撃しました。
湾岸戦争では、F-4Gに対して防空レーダーが照準のための照射を行った電波の発信元を逆探知し、HARMミサイル等対レーダーミサイル、敵のレーダーが発信する送信元を標定し逆に攻撃を行う空対地ミサイル、で最初にレーダーを破壊する。湾岸戦争ではイラク軍レーダー機動を強いるべくF-4Gの他に標的用無人機ファイアービー等を多数投入し、大規模な空襲を模しています。続いてF-4Gに対し発射される地対空ミサイルを狙う、F-4Gはこの際に猛烈な勢いで電波欺瞞装置と囮を発射しつつ逃げるのですが。
地対空ミサイルも発射された瞬間に下方監視レーダーに発見されますし、ミサイルを誘導する手段も射撃管制レーダーです。ただ、攻撃された囮のF-4Gは逃げなければそのまま地対空ミサイルに撃墜されてしまいますので、発射された敵地対空ミサイル位置を自動記録すると同時に低空飛行し隠れていた別のF-4Gが即座にその位置へ向かい、攻撃するのです。実際危険ですが、防空制圧部隊はその為の訓練を積んでいまして、勿論EF-111電子攻撃機によるミサイル誘導の無効化も併用し、可能な範囲内で危険を冒したことは言うまでもありません。
巡航ミサイル攻撃のみとなった今回のシリア空爆、防空制圧任務を行わずに実施したので、シリア軍地対空ミサイルに多数が迎撃され、という事です。しかし、防空制圧任務を行えば相応の犠牲が生じ、防空制圧部隊が撃墜される事は当然あり、防空部隊のミサイル要員やレーダー要員にも多数の犠牲者が出る、限定空爆とはこれを避けるため、限定なのです。限定空爆と全面せんそぅにおける本格的空爆は、このように区別する必要がありますね。
しかし、限定空爆、特にミサイル攻撃ならば準備はイージス艦や攻撃型原潜を展開させるだけで完了です。そして、ミサイルを投射する戦略爆撃機やイージス艦、攻撃型原潜などはシリア防空軍の射程圏内に入らずとも作戦が可能ですので、人的損耗の懸念もありません。準備期間が短くリスクが少ない、しかし巡航ミサイルは迎撃される事を念頭に必要な施設無力化任務を果たしています、そして目標を制圧するという任務を果たしシリア政府に強烈な最後通牒を突き付けるという政治目的を果たした、これが今回のシリア攻撃の特色といえるでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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土曜日4月14日に実施された米英仏有志連合によるシリア攻撃について、これがどの程度効果があったのかを見てみましょう。
米英仏有志連合によるシリア攻撃、B-1爆撃機やイージス艦からの巡航ミサイル攻撃、イギリス空軍のトーネード攻撃機がキプロスのイギリス軍基地より進出、フランス空軍もラファール戦闘機を派遣し巡航ミサイル攻撃を行いました。トランプ大統領は攻撃成功、と強調しましたが、同時にシリア政府も巡航ミサイル多数の撃墜を発表、勿論どれだけ実際に撃墜したかは検証が難しいのですが、こう主張できるのは何故でしょうか。
トマホーク巡航ミサイルは潜水艦やイージス艦から発射し、GPS誘導に加え慣性誘導装置と地形追随装置を応用し超低空を飛翔、ピンポイントで命中するとの高性能が謳われ、実際に自動車大の目標、例えば電波塔基部や航空機シェルターの入り口部分に弾薬庫等の硬化扉に正確に命中させ、454kgの弾頭と残った個体燃料を用いて破壊する能力があります。命中精度の高さと共に改良型が絶えず開発、実戦での性能が高い。
アメリカ政府は攻撃成功を強調しつつ、シリア政府はミサイル迎撃成功を誇示している。こうしますと、どちらかが嘘を言っているようにえますが必ずしもそうではありません。この背景には、巡航ミサイルのみによる限定攻撃の特性がよく表れているといえるかもしれません。理由は第一に巡航ミサイルによる攻撃のみであった事、第二にシリア攻撃を国際社会が神経ガス使用を理由に制裁を示唆していた事、この二点を理解すると背景が判る。
制裁を示唆していたという降車、つまりシリアには防空体制を準備する時間があった。一方で前者の方、巡航ミサイルだけの攻撃であった、考えてみますと特殊です、無人攻撃機を使っていない。米軍には優秀な無人攻撃機があります、例えばMQ-9無人攻撃機、映画シンゴジラ等で米軍が使用し、パキスタンでアルカイダ系武装勢力に、イラクにてISIL系武装勢力に使用している攻撃機で飛行時間21時間、GPS誘導爆弾や対戦車ミサイルを六発程度搭載できます。
MQ-9を攻撃に使用できたならば、複合光学映像装置により確実に目標を米本土の司令部が確認しつつ目標だけを攻撃できます、巡航ミサイルでは発射時点で大まかな目標を設定する必要がありますし、目標を設定してもミサイルが飛翔している時間、トマホークはジェット旅客機並の高速なのですが、ミサイル到達までに目標が移動してしまう事もあり得る。そして万一撃墜されても無人ですので操縦士が怪我をする心配もありません。
しかし、トマホークが使用された背景には、MQ-9無人攻撃機ではシリア軍の防空システムにより撃墜される可能性があった為でしょう。無人機をドローンと表現しますが、ドローンとは軍事用語で標的用無人機を意味し、自衛隊も1950年代から使用しています、つまり対空ミサイルの射程内ならば落とすのは難しくは無い。MQ-9は高度13000mという高高度を飛行しますが、自衛隊にも航空自衛隊のペトリオットミサイル、陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾、改良ホークミサイル、海上自衛隊のスタンダード、落とせるミサイルは多い。
自衛隊でも準備万端の状況ならば同規模の攻撃があっても、もっと効果を挙げられたでしょう。例えば紀伊半島沖にミサイル爆撃機を進出させる中国軍が、我が国へ同様のミサイル攻撃を行った場合、恐らくミサイルの大半は航空自衛隊と陸上自衛隊により撃墜される事でしょう、こう表現しますと巡航ミサイルの威力はそれほど大きくないように思えてくるのですが、これは空爆ではなくミサイル攻撃という限定空爆における限界を端的に示したもの。
防空制圧任務、という、本格的な空爆を行う際に必ず実施する任務があります。今回は限定空爆ですので防空制圧を行わずミサイル攻撃を実施している。防空制圧任務とは、地対空ミサイルや防空部隊とこれらを結ぶ通信網そのものを破壊する任務で、非常に危険なのですが囮の航空部隊、1991年湾岸戦争のころはF-4G戦闘機、1998年ユーゴ空爆の時はF-16CV戦闘機、を実際に飛行させ、迎撃する地対空ミサイル部隊を炙り出し攻撃しました。
湾岸戦争では、F-4Gに対して防空レーダーが照準のための照射を行った電波の発信元を逆探知し、HARMミサイル等対レーダーミサイル、敵のレーダーが発信する送信元を標定し逆に攻撃を行う空対地ミサイル、で最初にレーダーを破壊する。湾岸戦争ではイラク軍レーダー機動を強いるべくF-4Gの他に標的用無人機ファイアービー等を多数投入し、大規模な空襲を模しています。続いてF-4Gに対し発射される地対空ミサイルを狙う、F-4Gはこの際に猛烈な勢いで電波欺瞞装置と囮を発射しつつ逃げるのですが。
地対空ミサイルも発射された瞬間に下方監視レーダーに発見されますし、ミサイルを誘導する手段も射撃管制レーダーです。ただ、攻撃された囮のF-4Gは逃げなければそのまま地対空ミサイルに撃墜されてしまいますので、発射された敵地対空ミサイル位置を自動記録すると同時に低空飛行し隠れていた別のF-4Gが即座にその位置へ向かい、攻撃するのです。実際危険ですが、防空制圧部隊はその為の訓練を積んでいまして、勿論EF-111電子攻撃機によるミサイル誘導の無効化も併用し、可能な範囲内で危険を冒したことは言うまでもありません。
巡航ミサイル攻撃のみとなった今回のシリア空爆、防空制圧任務を行わずに実施したので、シリア軍地対空ミサイルに多数が迎撃され、という事です。しかし、防空制圧任務を行えば相応の犠牲が生じ、防空制圧部隊が撃墜される事は当然あり、防空部隊のミサイル要員やレーダー要員にも多数の犠牲者が出る、限定空爆とはこれを避けるため、限定なのです。限定空爆と全面せんそぅにおける本格的空爆は、このように区別する必要がありますね。
しかし、限定空爆、特にミサイル攻撃ならば準備はイージス艦や攻撃型原潜を展開させるだけで完了です。そして、ミサイルを投射する戦略爆撃機やイージス艦、攻撃型原潜などはシリア防空軍の射程圏内に入らずとも作戦が可能ですので、人的損耗の懸念もありません。準備期間が短くリスクが少ない、しかし巡航ミサイルは迎撃される事を念頭に必要な施設無力化任務を果たしています、そして目標を制圧するという任務を果たしシリア政府に強烈な最後通牒を突き付けるという政治目的を果たした、これが今回のシリア攻撃の特色といえるでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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