北大路機関

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【日曜特集】ミストラル東京寄港【2】日仏艦出港へ,ミストラル&きりしま(2008-04-13)

2018-04-08 20:10:41 | 世界の艦艇
■戦力投射任務担う多機能艦
 フランス海軍強襲揚陸艦ミストラル、海上自衛隊からのホストシップ、イージス艦きりしま、出港へ。

 ミストラル級強襲揚陸艦はフランス海軍が新しい戦力投射艦という任務を想定し建造したものです。設計思想は揚陸艦であると共に、従来型の水陸両用作戦に留まらず、人道支援任務や国際平和維持活動、大規模災害への対応も任務に含むという新世代艦を目指した。

 戦力投射艦という設計思想、この為に最高速力は18.8ノットと抑えられています、艦船は速力を倍にするには二乗倍の機関出力を必要としますので、艦隊行動を重視しないのであれば、速力を抑えた方が経済的となります。本型は自衛隊の任務を考えれば参考点が多い。

 DCN社がフランス海軍より新型強襲揚陸艦の建造を受注した際、これはフランス海軍最大の軍艦である原子力空母シャルルドゴールに準じる第二の大型艦として設計されているのですが、徹底したコスト管理を通す事で2隻を6億8500万ユーロで受注することになった。

 フードル級ドック型揚陸艦に続く新型艦となったミストラル級ですが、既存のクルーズ船設計を流用する事で、フードル級が満載排水量1万2400tに対しミストラル級は満載排水量2万1500tと大型化しているのに対し、一隻当たりの建造費は30%も縮小できています。

 多目的輸送艦として海上自衛隊も新防衛大綱へ各国の強襲揚陸艦として運用する艦艇と同水準の大型艦を建造する構想が伝えられていますが、本土着上陸抑止という専守防衛政策に加え南西諸島防衛にミサイル防衛と予算に余裕は無く、本型の設計は大いに学ぶべきだ。

 クルーズ船設計を基本としているミストラル級、機関配置や推進方式と電気系統などにその設計が大きく応用されているのですが、これにより客船並みに自動化が進み、最小で140名による運用が、ダメージコントロール等を想定しても200名で運用できるといいます。

 450名の兵員とルクレルク戦車13両かVBCI装輪装甲戦闘車60両、NH-90多用途ヘリコプター8機とEC-665戦闘ヘリコプター8機を輸送可能です。クルーズ船の設計を応用している為、兵員室は各国強襲揚陸艦が三段ベッドを際限なく並べているのに対し個室中心だ。

 ミストラル級の兵員室は四名用個室と六名用個室併用方式を採用していまして、一人足りの居住区画はフランス陸軍の陸上兵舎よりも高品質な環境が供され、実質数か月間を海上機動する場合でも、同乗将兵は作戦参加まで快適な待機時間を過ごすことができるという。

 個室中心、海上自衛隊の輸送艦おおすみ型等は陸上自衛隊員区画が三段ベッドとなっていますので、これは羨ましいように思えますが、逆に満載排水量2万1500tの強襲揚陸艦が450名しか輸送出来ず、満載排水量14000tおおすみ、340名を輸送する点と比して少ない。

 緊急時には個室の余剰空間に格納庫や通路へ野戦用ベッドを野積みする事で輸送能力を付け足す事は出来なくもないようですが、クルーズ船設計を応用している事でバリアフリー設計となっており、逆に浸水防止用区画が限られる等、設計には考えさせられるものも。

 フランス海兵連隊の将兵からはミストラル級の居住性を高く評価する声と共に、しかし管内の手摺やバリアフリー設備を挙げ、身障者を水陸両用作戦に投入する程の状況は想定すべきではないと否定的な意見もあるようです、要するにもっと積む事を第一にすべき、と。

 フランス海軍が3隻を導入したミストラル級、当初はロシア海軍が2008年のグルジア紛争を受け、イワンロゴフ級強襲揚陸艦等旧式艦による水陸両用作戦能力の陳腐化を痛感し、2隻の導入を決定しました。対ロシアクリミア併合経済制裁により白紙撤回されていますが。

 一方、オーストラリア海軍の将来揚陸艦選定へもミストラル級は提案されています。オーストラリアは老朽化著しい重輸送揚陸艦トブルク代替と増大する海外派遣任務へ対応すべく大型の強襲揚陸艦2隻の導入を構想、フランスとスペインが新型艦を提案していました。

 ミストラル級は450名の輸送能力を有していますが、オーストラリア海軍はこの規模の船体に対し過小であるとし、1000名規模の輸送能力を求めています。また、商船構造が攻撃を受けた際の脆弱性を払拭出来ないとし、結局スペイン案が採用されることになります。

 キャンベラ級強襲揚陸艦としてオーストラリア海軍はキャンベラ、アデレードを導入、2014年から就役した。建造費一隻5億5000万ユーロ、満載排水量27000t、いずも型護衛艦と同大で、NH-90多用途ヘリコプター32機、M-1A1戦車46両、兵員1220名を収容する。

 ミストラル級よりもキャンベラ級は満載排水量が25%大きく、建造費は六割以上高い、しかし三倍近い兵員と四倍近い戦車の輸送力、二倍のヘリコプターを搭載可能です。居住性はミストラル級が良好で人道作戦等の長期展開を考えればこちらは理想ともいえるのだが。

 ヨハンデヴィット、オランダ海軍の満載排水量16600tという新鋭揚陸艦はNH-90多用途ヘリコプター6機とレオパルド2戦車33両に兵員611名を輸送出来、リンクス対潜ヘリコプターと魚雷30発、ソノブイ300基を搭載し対潜母艦としても運用できる艦もあります。

 ミストラル級強襲揚陸艦で快適な船旅を上陸部隊へ約束、という運用よりも、長期間の国際平和維持活動や海賊対処任務等での洋上待機任務に適した艦艇といえ、駐屯地の無い離島地域での長期間の即応待機任務や災害派遣任務に資する設計といえるかもしれません。

 ただ、緊急時に人道支援任務や自国民救出任務を行う場合にはミストラル級の余裕ある設計は大きな収容能力へ発展させられます、例えば2006年の南レバノン紛争では突如イスラエル軍が隣国レバノンへ自国兵士救出を口実に大規模侵攻し、観光客多数が乗り残された。

 南レバノン紛争では地中海沿岸のレバノンには多数のフランス人観光客を始め外国人が滞在しており、フランスはルクレルク主力戦車やAMX-10P装甲戦闘車を中心とする国連防護軍部隊を派遣すると共にレバノン国内に孤立した外国人救出任務が急務となっています。

 ミストラルは1800㎡の航空機格納庫と2560㎡の車両甲板の余剰区画に野戦用ベッドを敷き詰め、ドック型揚陸艦フードル、シロッコと共に4000名の非戦闘員輸送任務を実施しました。給食能力や造水能力等から長期間の収容は不能ですが、数値以上の輸送力を持つ。

 キャンベラ級のような設計であれば、例えば自衛隊は戦車部隊を主として北海道に集約し、有事の際に緊急展開する統合機動防衛力へ転換している最中ですので、海上自衛隊にキャンベラ級強襲揚陸艦程度の輸送艦が3隻あれば、戦車部隊の緊急展開には資するといえる。

 多目的輸送艦を海上自衛隊が考える場合、勿論日本国内において建造する事となるのでしょうけれども、商船設計と既存設計を流用し費用面を抑えつつ輸送力について妥協するのか、建造費が高くとも長期間にわたり防衛力を支える艦とするのか、選択せねばならない。

 フランス海軍はミストラル級強襲揚陸艦を3隻運用しています。一番艦ミストラル、二番艦トネル、三番艦ディクスミュード、この中で三番艦は予定になかった建造ですが、欧州経済危機を受け公共事業で発注されました。この離れ業も安価な建造費故といえましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (2)
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