北大路機関

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【日曜特集】ミストラル東京寄港【3】東京港出港,ミストラル&きりしま(2008-04-13)

2018-04-22 20:05:03 | 世界の艦艇
■ミストラル&きりしま東京出港
 強襲揚陸艦ミストラル寄港、いよいよホストシップのイージス艦きりしま、とともに出港です。

 ミストラル級強襲揚陸艦ミストラル東京寄港、この日9は第1師団創設記念練馬駐屯地祭と同日という事で早朝の東京港へ進出したものです。正直な印象ですが、ミストラル、もう少し艦首部分を延伸、飛行甲板を長大化する事は出来なかったのかな、と第一印象が。

 強襲揚陸艦ということで飛行甲板を大きく採った艦容、しかし、撮影はミストラルを見上げる構図で撮影しましたので、どうしても飛行甲板よりも巨大な上部構造物の方が目に入ります。格納庫容積の確保という観点からの設計でしょうが、風の影響が大きそうだ、と。

 ブロック建造方式を採用したミストラル級強襲揚陸艦ですが、この関係もあるのでしょうか、艦首部分の曲線があまり軍艦としての優美さを強調するのではなく、費用面で重視した結果、という印象もありました。ホストシップが護衛艦きりしま、であった為に尚更だ。

 シロッコ級ドック型揚陸艦、ミストラル級強襲揚陸艦の前級に当たる揚陸艦よりも満載排水量で倍近くになっているのにもかかわらず建造費は抑えられているという際、前提の情報が安っぽい、と思わせたのかもしれません。見慣れてくると、良さが分かる、という。

 飛行甲板ですが、フランス陸軍が誇るNH90/SA330/AS532-U2強襲ヘリコプター、最新鋭のEC665戦闘ヘリコプターが離発着できるのは当然です。ここに加えて2009年のNATO演習においてアメリカ海兵隊の各種ヘリコプターも艦上運用できる事を証明しました。

 ミストラル級強襲揚陸艦からは西側最大のヘリコプターとして知られるアメリカ海兵隊のCH-53E重輸送ヘリコプターが発着でき、またAH-1W攻撃ヘリコプターの運用も出来たといい、この点、AH-1S対戦車ヘリコプターを運用する日本としては興味深い能力ですね。

 MV-22可動翼機も2014年に西アフリカ地域で実施された人道支援作戦においてミストラル級強襲揚陸艦艦上を経由し運用した実績があり、陸上自衛隊は間もなくMV-22可動翼機の受領を開始しますので、振り返ってみますとミストラル級強襲揚陸艦は興味深い艦です。

 ステルス性の観点からここまで大きな船体、特に傾斜へ配慮していない設計様式について東京港で現物を目の当たりにしまして随分と考えさせられたものですが、ハイブリッド戦争、地域紛争への展開を考えた場合の対艦ミサイル脅威度の判定結果帰結したのでしょう。

 戦力投射艦、という概念はこのミストラル級強襲揚陸艦の後に最高速力を抑え、航空機運用能力に両用作戦能力を共に兼ね合わせた、強襲揚陸艦と軽空母の中間を担う艦艇という区分が醸成されていったのは2010年代に入ってから、ある意味その先駆者ともいえます。

 ハイブリッド戦争、地域紛争が段階拡大する状況や地域不安定要素が結果的に主権国家の存亡へと発展する状況、非対称戦争の手段を以て第三国の軍事的要求が達成されるという状況を回避するには、早い段階に展開し対処、紛争を芽の内に摘んでしまう事が望ましい。

 対艦ミサイル脅威、しかし、この種の地域紛争ではある程度は無視できるという考えは、2017年のイエメン内戦における有志連合部隊アラブ首長国連邦輸送船スウィフトがイエメンフーシ派のイラン製対艦ミサイル攻撃で全損する被害により認識が大きく転換しました。

 地対艦ミサイルは大型で複雑な装備ですが、過去にはイスラエル海軍が誇るステルスコルベットエイラートが武装勢力ヒズボラにより中国製地対艦ミサイルによる攻撃を受け、回避できず被弾するという事態も発生、武装勢力即ち軽装備とは言えぬ状況があるのですね。

 ミストラルは従来型戦争に対してどの程度の能力を発揮できるのか、イスラエル海軍の事例もアラブ首長国連邦輸送船スウィフトも、地域紛争であっても第三国が一方の武装勢力を支援している場合従来考えられなかった高性能兵器が運用される事を突き付けています。

 MRR-3D三次元レーダーを搭載するミストラルは遠距離の航空目標を探知する事が可能です。これは多数の航空機を運用する強襲揚陸艦には必須といえるもので、航空管制以外に対空警戒も可能、併せてブリッジマスター250E航空管制レーダ装置を搭載しています。

 武装は12.7mm機銃4丁とSIMBAD連装近SAM発射機が2基、近年は30mm単装機関砲2基が追加されました。SIMBADはミストラル携帯地対空誘導弾を簡易発射架に据えたもので、防空システムと連接している訳ではありません。CIWSも無く、一見して心細い。

 しかし、ミストラル級にはARBR-21電波探知装置とECM電波妨害装置にSLAT対魚雷デコイ装置という電子戦装備が一通り搭載されています。これにより地対艦ミサイル等の脅威情報を迅速に検知し、ミサイル攻撃や魚雷攻撃を受けた際には適切な妨害が可能となる。

 輸送船スウィフトへのミサイル攻撃は、同船が電子妨害装備を全く有さず、そもそも電波探知装置を搭載していなかった為に夜間、ミサイルが命中するまで気付かず、適切な回避行動がとれなかったという要因があり、ミストラルの装備はやはり戦闘艦だ、といえます。

 多目的輸送艦として海上自衛隊は水陸機動団新編と島嶼部防衛強化へ対応するべく、現在の輸送艦おおすみ型、おおすみ、しもきた、くにさき、の3隻に加えヘリコプターの運用能力を有する両用作戦艦の整備を検討していると幾つかの報道機関にて報じられています。

 ミストラル級強襲揚陸艦は長大な飛行甲板から6機のヘリコプターを同時運用する事が出来、AH-64D戦闘ヘリコプター2機、UH-60JA多用途ヘリコプター2機、CH-47JA輸送ヘリコプター2機という、着陸掩護に偵察隊と戦闘部隊を送る飛行分遣隊を同時発艦させうる。

 MITSUI-LHDとして2017年の海洋安全シンポジウムMASTにて三井造船が提案した多目的輸送艦というパネルが展示されていました。全通飛行甲板構造を採用しており、基準排水量16000t、全長210m、全幅35m、喫水7m、速力22ノット、乗員200名、という。

 ミストラル級は基準排水量16500t、全長199m、全幅32m、喫水6.2m、速力18.8ノット、乗員200名、となっていますので三井造船が提案する多目的輸送艦というものはミストラル級、とは一致しないものの共通する要目がある艦艇、ということが分かるのですね。

 MITSUI-LPDとして2017年の海洋安全シンポジウムMASTにはドック型揚陸艦を三井造船は提案しています。全通飛行甲板型ではありませんが基準排水量16000t、全長210m、全幅30m、喫水7m、速力22ノット、乗員200名、独自案ではありますが実に興味深い。

 イージス艦きりしま、に先導され強襲揚陸艦ミストラルは東京港を出港してゆきました。横須賀にて随伴のフランス駆逐艦と合流するとの事でしたが、当日は満開の桜並木と第1師団記念行事の当日、74式戦車と桜並木の情景もやはり撮影しておきたく、転進しました。

 フランスと我が国は2018年内にも包括安全保障協力協定締結の方向で調整が続き、日仏外相防衛相会談が行われています。フランスは南太平洋に海外県を有し、実は太平洋諸国の一員でもあり、今後日仏防衛協力が強化されたならば、今度はミストラル艦内が一般公開されるかもしれませんね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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