北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

はぐろ竣工(DDG-180-HAGURO)イージス艦八隻体制のミサイル護衛艦オールイージス時代

2021-03-21 20:09:31 | 先端軍事テクノロジー
■第四護衛隊群第八護衛隊に配備
 はぐろ竣工です。まや型二番艦、前回横浜で望見しまして建造中のイージス艦が順調の建造を進めまして竣工しました。

 はぐろ。横浜のジャパンマリンユナイテッド磯子工場にて、まや型ミサイル護衛艦二番艦はぐろ、が自衛艦旗を受領し竣工しました。建造費は1730億円で、これは最新鋭もがみ方護衛艦の3倍以上に達する護衛艦です。しかし、単に新しいミサイル護衛艦の竣工に留まらず、ターターシステムからイージスシステムへの歴史的な転換の完了を意味します。

 あまつかぜ。海上自衛隊は1963年にターターシステムを搭載した初のミサイル護衛艦あまつかぜ、を配備しました。ターターシステムは高度経済成長時代の日本にとっても非常に高価であり、二番艦建造は見送り、時を置いてミサイル護衛艦たちかぜ型を建造します。続き、はたかぜ型と併せ6隻を建造した後に、イージス艦の導入へ転換してゆくのですね。

 こんごう。海上自衛隊が初のイージス艦を竣工させたのは1993年です。ターターシステム時代から自衛隊はデジタルへの転換を進めると共にイージスシステムの先進性に注目し、海上幕僚長が幾度もアメリカ海軍作戦部長に親書を送り続け、もともと海外へ供与される計画の無かったイージスシステムを最後は外交の場面を通じて、導入へ漕ぎ着けました。

 イージスシステム、その始まりは1944年の日米空母決戦“マリアナ沖海戦”の検証作業に遡ります。マリアナ沖海戦では日本側の航空管制が技術の限界から波状攻撃となり各個撃破され、マリアナの七面鳥撃ちという結果に終わりましたが、大編隊による統一戦闘加入飽和攻撃を実施していた場合、突破された可能性がある、アメリカの検証がありました。

 テリアシステム、タロンシステム、ターターシステム、アメリカは第二次世界大戦後、ジェット機時代の到来を受け“3T”システムという射程に応じた三つのミサイルシステムを開発していますが、マリアナ沖海戦の再来と云うべき同時飽和攻撃への対処に3Tシステムは限界がありました。防空艦多数を準備しても同一目標重複攻撃等の問題があるのです。

 艦隊防空システムを全てデジタル化すると共に長距離目標情報をいち早く収集し脅威度を瞬間的に選別し、此処に最適な防空対処を投射する、アメリカは先ずタイフォンシステムとして具現化を目指しましたがアナログシステムのデジタル化は1950年代には難しすぎる課題であり、仕切り直しとなります、これが1969年にイージス計画へと発展しました。

 Sバンドレーダーの採用、イージスシステムでは数百kmに達する探知距離と低空目標の精密探索に最適なCバンド周波数帯か遠距離探知に適するが巨大で精査度の粗いSバンド周波数帯かが激論となり、Cバンドレーダーに決定しつつあったところを責任者の海軍提督がSバンドレーダー採用を強行しました。これは結果的にイージスシステムの将来を左右する。

 SPY-1レーダー、イージスシステムと云えば巨大な六角形のレーダーは僅か1.7度の索敵範囲しか持たないペンシルビームを照射するアンテナ素子の複合体で、アメリカや自衛隊が採用するSPY-1Dでは一基当たり4350基のアンテナ素子を有しています。Sバンドレーダー故に巨大なシステムとなりましたが、将来発展性の規格外の冗長性を付与できました。

 情報処理技術の発展は飛躍的であり、Sバンドレーダーの粗い情報は火器管制装置に処理させる事で1000km以遠の目標をも判別する水準となり、4350基の素子が断続的に発する走査ビームは数百機のミサイル爆撃機による同時攻撃をも、数隻のイージス艦集中運用により阻止出来ると共に粗いSバンド帯は電子妨害に非常に強く海軍史を変えるシステムです。

 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦。アメリカ海軍は巨大なスプルーアンス級駆逐艦船体を利用し初のイージス艦としてタイコンデロガ級を建造します。Sバンドレーダーは巨大であり、これを搭載するには駆逐艦では難しく結果的に巡洋艦でなければ搭載出来ない水準となります。後に駆逐艦を巡洋艦波に大型化させ駆逐艦にも搭載される事とはなりますがね。

 海上自衛隊がイージスシステム導入を検討した際、海上幕僚監部の意見は真っ二つに割れたといいます。なにしろイージスシステム単体の費用だけでミサイル護衛艦建造費を凌駕し、イージスシステム取得費用はハリアー飛行中隊に、搭載出来る護衛艦の大きさは全通飛行甲板型に匹敵する、つまり軽空母並の費用を要する為、反対論が出てきたのですね。

 しらね型ヘリコプター搭載護衛艦の三倍以上というイージス艦の導入、艦隊防句が重要ならば当時検討された全通飛行甲板型の8700t型護衛艦にハリアー飛行中隊を搭載する航空機搭載護衛艦の方が良い、との反論がありました。実際同時期のスペインやイタリア、少し前のイギリスはハリアー母艦を建造している時代であり、日本の選択は意外でも在った。

 こんごう型護衛艦はこうした形で実現し、自衛隊はイージスシステムの時代を迎えました。7200t型護衛艦として建造された護衛艦こんごう型、その後の冷戦構造崩壊を受け6000t型として搭載するSPY-1レーダーの簡略型へ縮小する検討はあったようですが、運用の整合性を考える上で7700t型護衛艦として、あたご型が建造、そして7900t型、まや型へ。

 8隻のイージス艦を建造する背景には、海上自衛隊の機動運用部隊である護衛艦隊は1974年に4個護衛隊群となり、護衛隊群の艦隊防空に当るミサイル護衛艦は各護衛隊群に2隻を配置する、とした基本構想によるもの。厳しい財政状況が続くものの8隻のイージス艦整備は最低限必要であるとして財務当局を説得し続け、はぐろ竣工を迎えたのですね。

 ミサイル防衛、Sバンドレーダーの採用は数千kmを隔てた弾道ミサイルを狙うミサイル防衛任務にも対応し、イージスシステムを基盤としたNIFC-CA海上統合火器管制能力はイージス艦に370kmの防空能力を付与させることとなっています。イージス艦は日米に採用されると共に、スペイン海軍やノルウェー海軍、オーストラリア海軍へ採用されました。

 こんごう、きりしま、みょうこう、ちょうかい、あたご、あしがら、まや、はぐろ。イージス艦は時間こそ掛かりましたが遂に8隻体制が実現したのです。海上自衛隊では、部内研究ではオールイージスの検討、というものさえありまして、将来的には護衛艦むらさめ型後継に当る将来汎用護衛艦へのイージスシステムの搭載が検討されるかもしれませんね。

 海上自衛隊は大きく進化しました。ヘリコプター搭載護衛艦は、はるな型、しらね型を置換える全通飛行甲板型護衛艦時代となり、ひゅうが型、いずも型、そして第五世代戦闘機F-35Bの搭載計画が進んでいます。ミニイージス艦と称された護衛艦むらさめ型は、たかなみ型を経て、あきづき型は両艦防空能力を備え、あさひ型を加え20隻体制となりました。

 はぐろ竣工、同時に最後のターターシステム艦であった、しまかぜ、は練習艦へ転籍する事となりまして、現在大車輪で建造が進む護衛艦もがみ型には開発中のA-SAMが搭載されかなり高い防空能力を有する事となります。海上自衛隊の艦隊防空は確実に次の一歩を歩んでいます。はぐろ、第四護衛隊群第八護衛隊に配備され、間もなく母港佐世保に向かう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする