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【防衛情報】第四世代戦車の展望,レオパルド2トロフィー搭載とEMBT-ASCALON将来戦車砲

2021-04-26 20:02:18 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 第三世代戦車に続く第四世代戦車はどうなるのか、今回は将来戦車の在り方へ試金石となる新動向を見てみましょう。

 戦車について、世界は冷戦時代後期に開発した第三世代戦車が、いまだ防御力強化などの改修を重ねつつそのままであり、M-1戦車やレオパルド2主力戦車は基本設計が四十年以上そのまま、改修を積み重ね重量だけが増大するという状況にあります。しかしドイツなどはフランスと将来戦車模索を始めています。さて、第四世代戦車はどうなるのでしょう。

 第四世代戦車、恐らく大口径戦車砲と複合装甲に高出力エンジンという定義はそのままであると考えます、更なる重装甲化が進む可能性はありますが70tの現状で戦車は重量過大、戦車砲も140mmは威力過大かもしれません。ただ、新たな世代の定義として、アクティヴ防御システムの採用、電子光学情報と複合監視装置、この二つが加わるのかもしれません。

 ドイツ連邦軍はイスラエルのラファエルアドバンスシステムズ社より戦車用トロフィーアクティヴ防御システムに関する導入計画を進めているとの事です。トロフィーアクティヴ防御システムは対戦車ミサイルやRPG対戦車擲弾等に対しミリ波レーダーを用い感知、即座に小型指向性散弾等の対応手段を投じ脅威の戦車到達前に撃破するという新装甲です。

 トロフィーアクティヴ防御システムは擲弾の他に中和バブルという周辺歩兵へ配慮した対処も出来、更に脅威対象を撃破すると共にミサイルや擲弾の飛来方向を検知標定可能で、搭載するサムソン30RWS遠隔操作銃搭を連動させる事で自動的にミサイル発射地域へ機銃弾による弾幕を張り、次弾発射を妨害すると共に対戦車兵を無力化する事が可能です。

 対戦車ミサイルの威力は年々、タンデム弾頭の採用などで強化されており、各国戦車は複合装甲により防御力を向上させていますが、全周に渡る複合装甲防御は不可能であり、更にミサイルは装甲車両の防御が車高を抑える為に限界とせざるを得ない上部装甲を狙うものが増えています。この為、当る前に落とす、アクティヴ防御が近年開発されています。

 上記のようなトロフィーアクティヴ防御システムと同等の戦車防御システムは我が国でも防衛装備庁が開発中ですが、対戦車ミサイルの威力が更に向上し、徘徊型弾薬という自爆無人機の脅威を目の前にしますと、装甲で耐えるという現行方式は際限ない戦車重量肥大化を招き、動けなくなります、するとアクティヴ防御システムは必須となるやもしれない。

 電子光学情報と複合監視装置、要するに戦車がAIと連動した光学監視装置やレーダーを備える等、今以上にハイテク化する、という事です。センサーは五感には敵わない、敵戦車の音を察知しエンジン駆動の匂いと変な木々や梢の揺れなどから気配を察知する、これは必要ですが、音は狙撃監視装置の様な音響解析装置で、木々の揺れはカメラで察知できる。

 戦車のハイテク化については、いまのところ実用戦車にこうした装置を搭載するものは無く、ロシアのT-14アルマータ戦車等が無人砲塔化を実現している事から五感に代わるセンサーを有しているのではないか、という範疇です。ただ、装甲戦闘車ですと、ドイツのプーマ装甲戦闘車の電子化にこうした兆候が見られるのですね、技術が五感に追いつくのか。

 ドイツ連邦軍はプーマ装甲戦闘車に適合するIdZ-ES将来装甲擲弾兵戦闘システムの完成を宣言しました。連邦軍のアルフォンスマイス中将によれば、システム装甲擲弾兵とも称されるIdZ-ES将来装甲擲弾兵戦闘システムはデジタル無線通信により各プーマ装甲戦闘車と歩兵用携帯端末とを結び、必要な情報を共有し戦闘を効率化させる事が可能という。

 プーマ装甲戦闘車そのものにもデジタル無線通信能力が付与されると共に各員が装備する個人用通信端末の充電なども想定しており、2021年2月よりドイツ北部のリューネブルガーハイトのベルゲン演習場において3週間にわたる総合評価試験を実施、この試験が高評価を以て完了した為、IdZ-ES将来装甲擲弾兵戦闘システムの完成を宣言に至ったとのこと。

 ドイツ連邦軍はNATO即応部隊へ提供する高高度即応統合任務部隊VJTF2023についてプーマ装甲戦闘車とIdZ-ES将来装甲擲弾兵戦闘システムを参加させる方針です。VJTF対応型プーマIFVは40両で一個大隊を構成、MELLS対戦車ミサイルやC4I装備を保有するとの事です。また高度なセンサーを搭載したプーマは複数のカメラを分散配置しています。

 VJTF対応型プーマIFVは、従来のドイツ製装甲車両が外部視察にペリスコープを用いていたのに対し、熱線暗視装置と光学カメラを一体化させた外部センサーを搭載する事で、車長や砲手と操縦手はペリスコープではなく、カメラ映像を車内において表示させる方式へ転換しており、これは将来、プーマ装甲戦闘車の無人運用へ可能性を拓いたと云えます。

 140mm戦車砲弾は威力過大かも知れない、こう前述しましたが、一方で2050年代の戦車防御力向上を考えた倍、120mm戦車砲では威力不足となる可能性もある、そこで従来の技術常識に140mm砲は巨大すぎて戦車砲に搭載出来ない、という常識を、極めて小型の大口径機関砲として開発された40mmCTA機関砲技術を戦車砲に応用する動きが、あるもよう。

 フランスのネクスター社はASCALONコンセプトとしてEMBT独仏共同開発戦車用に画期的なテレスコープ弾方式の140mm級大口径戦車砲及び弾薬システムの研究を発表しました。ASCALONコンセプトは2030年代に開発されるEMBT戦車へ2040年代から2050年代までに物理的に想定される重装甲の戦車脅威へ対抗する現実的な戦車砲の開発です。

 ASCALONコンセプト、これは日本の10式戦車用135mm戦車砲やレオパルド2戦車用140mm戦車砲等が過去に開発されているものの、弾薬の大型化や巨大な反動から50t乃至60t台の車体へ搭載する事が現実的ではなく70tや80t台まで戦車が巨大化する為、現実的ではないとされてきました。ASCALONコンセプトは小型化で50t台の戦車へ搭載可能に。

 EMBT独仏共同開発戦車は、レオパルド2戦車及びルクレルク戦車の後継を目指す戦車ですが、1979年に試作車が完成したレオパルド2と同様にEMBTも将来に渡り半世紀近い運用が見込まれます、その為には将来にわたる強力な敵戦車の装甲を貫徹する必要があり、実用的な戦車砲は120mm級まで、という現代の常識を打ち破ろうとする挑戦の一つです。

 第三世代戦車は、複合装甲と120mm級戦車砲に1000hp以上のエンジン、こうした定義が成立ちましたが、2030年代以降に開発される第四世代戦車はアクティヴ装甲による化学エネルギー弾やミサイルの無力化、AI利用等戦車乗員補助機能の強化と自動化、140mm級戦車砲の実用化と重量維持の両立、こうした技術が、その条件定義となるのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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