北大路機関

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【防衛情報】米KC-46空中給油機増強と早期退役の独A310MRTT,インドテジャス戦闘機完成

2021-04-06 20:06:10 | インポート
■週報:世界の防衛,最新11論点
 今回は空中給油機等の話題と共に長年開発が続いた戦闘機計画の新しい一歩など、11の空軍関連の話題を紹介しましょう。

 アメリカ空軍は2021年にボーイングKC-46空中給油輸送機12機を新たに17億ドルで取得する方針を示しました。ボーイング社は既にアメリカ空軍との間で79機のKC-46空中給油機の製造契約を結んでおり、既に2019年1月からアメリカ空軍への納入を開始、2021年までに既に42機を納入しており、アメリカ空軍では現在4個飛行隊で運用中です。

 KC-46空中給油輸送機は冷戦時代に大量配備されたKC-135空中給油機の後継として開発されたもので、KC-135は民間型のボーイング707、初のジャンボ機へと派生型が開発されたのに対し、KC-46は逆に民間旅客機であるボーイング767-200ERを原型とし、主翼や油圧系統をボーイング767-300Fへ、また操縦システムは767-400ERから転用しています。
■米空軍KC-46を15機増強
 アメリカ空軍はKC-46を増強し従来のKC-135系統を767系統へ置き換えを加速させます。

 アメリカ空軍は2021年1月下旬、KC-46空中給油輸送機第七期発注分の15機を21億2450万ドルで受注しました、KC-46は空中給油機として用いると共に胴体下部を燃料タンクに転用したほかには胴体上部は通常の貨物輸送機や旅客機のように輸送に用いる事が出来、パレットや空輸コンテナの搭載、人員用座席や負傷者の担架等を空輸する事も可能だ。

 これらの機体は2024年5月31日までに納入完了が見込まれています。アメリカ空軍では空中給油機を含む旅客機転用航空機についてレーザー機体自衛装置など、空対空ミサイルの攻撃から生存させる新技術が開発中であり、中程度の脅威空域までこの種の航空機を進出させる計画もあり、この為にも旧式化したKC-135空中給油機の置換えが進んでいます。
■ドイツA310給油機早々除籍へ
 導入当時は充分と考えられたものの任務の増大に性能不充分となるのは1990年代に日本も通った道です。

 ドイツ空軍は旧式化が進むエアバスA310MRTT空中給油機の用途廃止を開始するとのこと。ドイツ空軍がエアバスA310MRTTの運用を開始したのは2009年であり、2021年という比較的短期間で運用終了が決定した事は驚きではあります。A310MRTTはドイツ空軍のユーロファイタータイフーン戦闘機の任務管区拡大を受け急遽導入される事となった。

 エアバスA310MRTTは、ドイツ空軍が第二次世界大戦の反省から連邦軍派遣地域を人道目的以外にはNATO域内に限定するという厳しい制約が1990年代まで継続されていた影響もあり、空中給油機取得についても永らく禁忌とされており、急遽必要となった際にはエアバスA310という、比較的小型の航空機が採用されることとなってしまった背景がある。

 ドイツ連邦軍のNATO域外派遣成約はカンボジア派遣やボスニア派遣、アフガニスタン派遣により有名無実化してしまいますが、小型のA310旅客機を中古取得し輸送機に転用した事で、かえってA310のエアバスにおけるサポート終了が短命に終わる事となりました。しかし空中給油機としてはアメリカのKC-135空中給油機と同等の燃料が搭載できました。
■米空軍E-8C監視機を延命へ
 135系統の航空機から767へ置き換えが始っているのは給油機分野のほうであり既存の機体延命はまだまだ続くようです。

 アメリカ空軍はE-8Cジョイントスター戦場監視航空機のレーダー能力維持改修について3億2500万ドルの契約をノースロップグラマン社との間で締結しました。E-8Cジョイントスター戦場監視航空機はボーイング707型機の胴体下部に長大なカヌー型合成開口レーダーを搭載し、広範囲の地上目標などを同時識別同時移動監視する為の航空機です。

 E-8Cジョイントスター戦場監視航空機はジョージア州ロビンズ空軍基地に第116航空管制飛行隊、第461航空管制飛行隊として17機が配備されています。ボーイング社では後継機としてP-8ポセイドン多目的哨戒機の派生型を提案していますが、特殊用途航空機だけに改修費が高騰する可能性もあり、アメリカ空軍では当面E-8Cの運用を継続する予定です。
■米空軍F-15FX初飛行
 F-15FX,ステルス性よりも搭載能力こそが重要というアメリカ空軍の先祖返り的決定で導入される現代版ストライクイーグルです。

 アメリカ空軍は2月3日、開発が進められていたF-15EX戦闘機の初飛行を完了させました。F-15EXはF-15E戦闘爆撃機の発展型でF-15C戦闘機等を置換える構想です。技術的冒険などは無く、初飛行の後には評価試験ではなく量産が開始される事となり、2021年第四四半期には2機を空軍に納入、7月には8機が空軍へ納入される計画となっています。

 F-15EXはF-35戦闘機よりも多数のミサイル等を搭載出来るミサイルキャリアーとして運用される方針であり、アメリカ空軍ではF-35戦闘機を補完する戦闘機として144機のF-15EXを導入予定です。特にF-35には搭載出来ない巨大な長射程ミサイルを搭載可能であり、アメリカ空軍では早くとも2050年代まではF-15シリーズを運用する計画です。
■フィンランドEF2000内定
 フィンランド空軍次期戦闘機選定は一時F-35の追加参画によりF-35優勢と伝えられましたが。

 フィンランド空軍はF-18戦闘機の後継機選定としてユーロファイターEF-2000を内定する方針を示しました。フィンランド政府はロシアとNATOのノルディックバランス政策に基づき、対地攻撃能力の大きな戦闘機を持たない伝統的な政策を執っており、アメリカ製F/A-18戦闘機を導入する際も、攻撃を示すAを外し、名称をF-18として導入している。

 ユーロファイターは対地攻撃能力も相応に高い機種となっています。ただ、今回の内定はあくまで内定であり、正式決定は2021年4月に予定されています。フィンランド空軍次期戦闘機選定にはユーロファイターEF-2000のほかに、スウェーデン製JAS-39,フランス製ラファール、アメリカ製F-35とF/A-18E戦闘機などが名乗りを上げ、売込みが続きます。
■カナダに謎のF-16中古機
 F-16は良い航空機なのですが謎のF-16がかなりまとまった数でカナダに現れました。

 カナダの防衛支援企業トップエース社はイスラエル空軍より余剰となったF-16戦闘機29機を一機当たり300万ドルから400万ドルで導入したとのこと。カナダ空軍ではCF-18戦闘機の後継機を導入中であり、当初はF/A-18Eに決定したものの総額取得費用の大きさから白紙撤回され、やむなくオーストラリアより中古F/A-18を導入する事としていました。

 F-16戦闘機29機の導入に、カナダ空軍の次期戦闘機更なる変更なのか、と驚かされたところですが、これは仮設敵機を運用し空軍の空対空戦闘などを支援するトップエース社が導入したもので、トップエース社はカナダ企業ですがF-16も機体そのものはアリゾナ州メサに展開しています。機体は極めて安価ではありますが、これは初期型のF-16Aであるため。

 F-16Aは今日的には既に陳腐化しており、第一線において運用するにはF-16C相当へアップグレードする必要がありますが、評価支援や仮設敵業務を行う民間会社が運用する戦闘機は第一世代戦闘機であるホーカーハンターやミラージュⅢ戦闘機のコピーであるダガー等が用いられており、第四世代戦闘機であるF-16戦闘機の参入はその大きな前進でしょう。
■F-35用SPEAR巡航ミサイル
 航空機を開発するよりもこの種のミサイルを開発させ製造移転を受ける事も重要な防衛力整備です。

 イギリス空軍はドイツMBDA社との間でEF-2000及びF-35戦闘機用SPEAR巡航ミサイル調達および製造移転に関する5億5000万ポンドの契約を締結しました。これによりイギリス国内での常勤職員200名を含む570名規模の雇用を実現すると共に、MBDA社関連部品製造は各種裾野産業を含めて、イギリス国内に間接的な4000名の雇用を生むという。

 SPEAR巡航ミサイルは射程140kmの空対地ミサイルで、対地用と対艦攻撃用、ミサイルの射程そのものは大きくありませんが、ミサイル本体がミーティア空対空ミサイルと同程度に小型化されており、短射程空対空ミサイル用ハードポイントに3発を搭載出来る他、AIM-9X空対空ミサイルに代えてF-35戦闘機のウェポンベイへ格納する事も可能です。
■今度こそ遂にテジャス完成
 インドのテジャス戦闘機は戦闘機業界のザグラダファミリアと呼ばれたものでしたが。

 インド政府は長らく設計と評価試験が続いていた国産戦闘機テジャスについて83機の調達をついに決定しました。テジャス戦闘機はもともとイギリス製ナット軽攻撃機の後継機を国産開発するという1960年代の計画から始まり、どういった戦闘機とするかの綿密且つ慎重な議論とともに、1985年に当時のナジブガンジー首相により開発が開始されました。

 LCA軽量戦闘機として開発されたテジャスは今回、戦闘機型73機と練習機型10機の83機を65億ドルで調達する事となります、エンジンはアメリカ製F-404-GE-IN20エンジンを採用するなど、製造費用の50%は輸入部品費用に充てられていますが、インド政府は将来的に国産比率を40%まで高めたい意向で、空軍の他に海軍艦載機としても開発が進む。

 テジャスは開発が遅延に遅延を重ねた事で知られます。インド政府は政治的な理由から開発を開始した戦闘機計画を終了できない状況が考えられ、テジャスの開発が遅延するたびにインド空軍はミラージュ2000やフランカーに最近ではF-16戦闘機の生産計画やフランスからのラファール導入が行われましたが、一応今回は完成したと考えてよいでしょう。
■インドはテジャス工場を拡張
 テジャス戦闘機について今回の量産決定の動きは工場拡張という形で具現化しています、もうF-16等を買い足す必要はないのでしょうか。

 インドの航空防衛企業HAL社は漸く開発が完了し遂に実用段階に達したテジャス戦闘機の量産に向け、テジャス関連工場の規模を二倍の規模に拡充する方針を示しました。これはインド空軍が正式発注した83機の量産に向け、2月に開催が予定されるエアロインディア2021においてインドのラージナートシン国防相より正式に発表されるものとみられる。

 テジャス戦闘機の量産はインドのバンガロール市ドデインクンディにて進められ、施設を拡張することで年間の生産能力を現在の8機から16機に拡大できるとのこと。これでは要求定数を5年ほどで完全に納入し終わってしまう計算でゃありますが、HALではテジャスをインド海軍空母艦載機などにも採用を目指す方針で、まだまだ量産は始まったばかりだ。
■インドの支援戦闘機用兵器
 新型戦闘機に沸くインド空軍ですが旧式航空機や練習機についても新しい運用を模索しているようです。

 インド軍は2021年1月21日、開発中の滑走路破壊兵器SAWWの発射試験を行いました。SAWWは射程100km程度の空対地ミサイルにクラスター弾頭を搭載したもので、インド空軍が運用するイギリス設計のホーク練習機より投射され飛行場を想定した着弾地域へ正確に命中しました。SAWWはインドの航空防衛産業HAL社により開発しています。

 SAWWを投射したのはホーク練習機ですが、これまでにインド空軍が運用するジャギュア攻撃機からの投射も試験されています。SAWWは実戦であれば露天駐機中の航空機や滑走路等を破壊するものですが、インド空軍ではSu-30などの第一線航空機を対戦闘機先頭に充てる一方、旧式機や練習機を戦闘機ではなく戦闘機基地へ運用するのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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