■特報:世界の防衛,最新論点
自衛隊の九州沖縄への中距離地対空誘導弾と地対艦誘導弾による防衛力整備が大車輪が進む中、野砲に驚くべき躍進が在りました。
特科火砲は射程70km時代が目の前まできている、現在世界の先端火砲は52口径の155mm榴弾砲で冷戦時代の39口径火砲を次第に置き換えつつあります。これにより射程は延伸しているのですが、従来は火砲の射程は現実的に40km程度、これでも戦艦大和の46cm艦砲に匹敵する絶大な射程ですが、今後はさらに射程の延伸という可能性が見えてきました。
アメリカ陸軍はERCA拡張型火砲より70km先の目標へM-982A1エクスカリバー155mm砲弾を命中させる事に成功しました。これは2020年12月19日に実施された射撃試験について責任者のCCDC陸軍戦力開発司令部ジョンラファティ准将が発表したものです。このERCA拡張型火砲原型は基本設計が古いM-109自走榴弾砲を応用したものという。
M-109A7自走榴弾砲を原型とするERCA拡張型火砲は、一世代前の伝統的な長砲身火砲である39口径砲を現在の世界標準である52口径よりもさらに長い58口径という全長10m近い砲身に換装する事で実現するといい、また70km先の目標へ正確に命中させる為に必要な対妨害機能を輸するPGK-AJ精密目標標定装置の開発も並行してすすめられています。
ERCA拡張型火砲はBAEシステムズ社が主契約企業となり、2023年にも最初の18両が機甲旅団戦闘団へ配備される計画です。アメリカ陸軍では砲兵火力の空軍への依存やロケットシステム等と比較し火砲への優先度が低い傾向があり、過去にはXM-2001クルセイダー自走榴弾砲が開発されるも中止されています。ERCAは漸く世代交代を迎える転換点です。
70kmという射程は絶大です。離島防衛を考えれば理想的であり、火砲というものの評価を根本から置き換えることとなるのかも知れません。例えば石垣島に射程70kmの自走榴弾砲を配備したとします、石垣島西端から西表島まで20km、石垣島中央部から西表島の最遠地点まで52km、波照間島までは55km、さすがに宮古島までは100kmあり届きませんが。
沖縄本島に配備することで伊江島はもちろん、与論島や伊是名島と伊平屋島だけでなく沖永良部島南部まで届きますし、沖縄本島周辺の島嶼部防衛でも、慶良間列島に配置するならば久米島や粟国島まで到達します。着弾観測と評定にスキャンイーグル無人機を併用することで、極端な話で特科部隊の全般支援大隊一個があれば全て射程内に収まるという。
奄美大島に配備した場合も、徳之島全域や沖永良部島北方海峡までと喜界島さすがに種子島までは到達しませんが、鹿屋基地の制空権まで、海峡防備を考えれば射程30kmの火砲と70kmの火砲とでは根本から異なる運用が可能となるでしょう。この射程ならば地対艦ミサイルの専管ではないか、と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
火砲に出来てミサイルに不可能である点、それは警告射撃が出来るという点です。護衛艦の127mm艦砲で水柱は100mほどわき上がります、155mm榴弾砲が中隊単位で警告射撃を行った場合、着上陸に際し明確な意思を表明できます。ミサイルならば一撃で命中撃沈できますが、こちらから攻撃して戦端を開くには日本だけでなく、障壁が大きいでしょう。
ミサイルには出来ないが火砲に出来る点、もう一つは独立運用性です。ミサイルは目標情報が不可欠であり、ミサイル発射器だけが無事で何の情報もなく目の前の船を狙い命中させるのは、対戦車ミサイルならばともかく地対艦ミサイルでは不可能です。他方、火砲であれば銃剣の届く距離は無理でも、近距離目標との間で独立した任務対応が可能です。
ERCA拡張型火砲は70kmという射程を58口径の長砲身により初めて実現した。射程70kmという非常に長大な火砲の射撃はこうした条件がある事は特筆しておかねばなりません。即ち陸上自衛隊の99式自走榴弾砲や、同じく52口径の長砲身を有する最新鋭19式装輪自走榴弾砲の砲身は、ERCA拡張型火砲よりも1m近く砲身が短い点は特記事項でしょう。
M-982A1エクスカリバー155mm砲弾。GPS誘導砲弾で40kmを越える射撃に際しては最早通常の無誘導砲弾では充分な命中精度、一般に誤差50m、この精度を維持できなくなっている点も特筆すべきであり、また、M-982A1エクスカリバー155mm砲弾はミサイル程ではないにしても通常の砲弾と比較した場合、非常に高価である事も忘れてはなりません。
ただ、99式自走榴弾砲の将来の改修として58口径への換装と70km規模の長距離射撃能力の付与が出来れば、運用の幅は大きく飛躍します。一方で、M-777超軽量榴弾砲、アメリカ陸軍の歩兵旅団戦闘団やストライカー旅団戦闘団へこうした牽引砲の長砲身化が進められていない点は、自衛隊の将来火砲へ応用を考えた場合、限界があるのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
自衛隊の九州沖縄への中距離地対空誘導弾と地対艦誘導弾による防衛力整備が大車輪が進む中、野砲に驚くべき躍進が在りました。
特科火砲は射程70km時代が目の前まできている、現在世界の先端火砲は52口径の155mm榴弾砲で冷戦時代の39口径火砲を次第に置き換えつつあります。これにより射程は延伸しているのですが、従来は火砲の射程は現実的に40km程度、これでも戦艦大和の46cm艦砲に匹敵する絶大な射程ですが、今後はさらに射程の延伸という可能性が見えてきました。
アメリカ陸軍はERCA拡張型火砲より70km先の目標へM-982A1エクスカリバー155mm砲弾を命中させる事に成功しました。これは2020年12月19日に実施された射撃試験について責任者のCCDC陸軍戦力開発司令部ジョンラファティ准将が発表したものです。このERCA拡張型火砲原型は基本設計が古いM-109自走榴弾砲を応用したものという。
M-109A7自走榴弾砲を原型とするERCA拡張型火砲は、一世代前の伝統的な長砲身火砲である39口径砲を現在の世界標準である52口径よりもさらに長い58口径という全長10m近い砲身に換装する事で実現するといい、また70km先の目標へ正確に命中させる為に必要な対妨害機能を輸するPGK-AJ精密目標標定装置の開発も並行してすすめられています。
ERCA拡張型火砲はBAEシステムズ社が主契約企業となり、2023年にも最初の18両が機甲旅団戦闘団へ配備される計画です。アメリカ陸軍では砲兵火力の空軍への依存やロケットシステム等と比較し火砲への優先度が低い傾向があり、過去にはXM-2001クルセイダー自走榴弾砲が開発されるも中止されています。ERCAは漸く世代交代を迎える転換点です。
70kmという射程は絶大です。離島防衛を考えれば理想的であり、火砲というものの評価を根本から置き換えることとなるのかも知れません。例えば石垣島に射程70kmの自走榴弾砲を配備したとします、石垣島西端から西表島まで20km、石垣島中央部から西表島の最遠地点まで52km、波照間島までは55km、さすがに宮古島までは100kmあり届きませんが。
沖縄本島に配備することで伊江島はもちろん、与論島や伊是名島と伊平屋島だけでなく沖永良部島南部まで届きますし、沖縄本島周辺の島嶼部防衛でも、慶良間列島に配置するならば久米島や粟国島まで到達します。着弾観測と評定にスキャンイーグル無人機を併用することで、極端な話で特科部隊の全般支援大隊一個があれば全て射程内に収まるという。
奄美大島に配備した場合も、徳之島全域や沖永良部島北方海峡までと喜界島さすがに種子島までは到達しませんが、鹿屋基地の制空権まで、海峡防備を考えれば射程30kmの火砲と70kmの火砲とでは根本から異なる運用が可能となるでしょう。この射程ならば地対艦ミサイルの専管ではないか、と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
火砲に出来てミサイルに不可能である点、それは警告射撃が出来るという点です。護衛艦の127mm艦砲で水柱は100mほどわき上がります、155mm榴弾砲が中隊単位で警告射撃を行った場合、着上陸に際し明確な意思を表明できます。ミサイルならば一撃で命中撃沈できますが、こちらから攻撃して戦端を開くには日本だけでなく、障壁が大きいでしょう。
ミサイルには出来ないが火砲に出来る点、もう一つは独立運用性です。ミサイルは目標情報が不可欠であり、ミサイル発射器だけが無事で何の情報もなく目の前の船を狙い命中させるのは、対戦車ミサイルならばともかく地対艦ミサイルでは不可能です。他方、火砲であれば銃剣の届く距離は無理でも、近距離目標との間で独立した任務対応が可能です。
ERCA拡張型火砲は70kmという射程を58口径の長砲身により初めて実現した。射程70kmという非常に長大な火砲の射撃はこうした条件がある事は特筆しておかねばなりません。即ち陸上自衛隊の99式自走榴弾砲や、同じく52口径の長砲身を有する最新鋭19式装輪自走榴弾砲の砲身は、ERCA拡張型火砲よりも1m近く砲身が短い点は特記事項でしょう。
M-982A1エクスカリバー155mm砲弾。GPS誘導砲弾で40kmを越える射撃に際しては最早通常の無誘導砲弾では充分な命中精度、一般に誤差50m、この精度を維持できなくなっている点も特筆すべきであり、また、M-982A1エクスカリバー155mm砲弾はミサイル程ではないにしても通常の砲弾と比較した場合、非常に高価である事も忘れてはなりません。
ただ、99式自走榴弾砲の将来の改修として58口径への換装と70km規模の長距離射撃能力の付与が出来れば、運用の幅は大きく飛躍します。一方で、M-777超軽量榴弾砲、アメリカ陸軍の歩兵旅団戦闘団やストライカー旅団戦闘団へこうした牽引砲の長砲身化が進められていない点は、自衛隊の将来火砲へ応用を考えた場合、限界があるのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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