北大路機関

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【防衛情報】アメリカ軍,M-10ブッカーMPF装甲機動砲発表とXM-30MICVブラッドレイ後継有人戦闘車両

2023-08-21 20:01:44 | 先端軍事テクノロジー
■■■防衛フォーラム■■■
 アメリカ陸軍に74式戦車並の重さの"軽戦車"というべき新型装甲機動砲が正式採用されました。自衛隊も可能ならば軽戦車ではないというこの車輛を偵察戦闘大隊に二個中隊分ほど欲しい。

 アメリカ陸軍は新型MPF装甲機動砲M-10ブッカーを発表しました。発表は6月9日、アメリカ陸軍としてこの種の装備を発表するのは40年ぶりとなります。この装甲機動砲は諸外国の装甲戦闘車派生の軽戦車に当るもので、また奇しくも先代にM-10駆逐戦車というものがあり、これも軽戦車や事実上の戦車として運用されていたという重なりが有ります。

 M-10ブッカーはジェネラルダイナミクスランドシステムズ社の開発したグリフィンⅡ軽戦車が原型として採用されたもので、この他に候補車輛としてBAEシステムズ社のM-8-AGS機動砲が提示されていました。その主砲は105mm砲で戦闘重量は38t、この重量は空軍のC-17輸送機に同時に2両が搭載出来る事を求められ収斂された重量とのこと。

 MPF,この装備体系が求められた背景にはアメリカ陸軍の歩兵旅団戦闘団の対戦車火力がTOWミサイルを搭載したハンヴィーに限られている為であり、従来この任務に当っていたM-551シェリダン軽戦車も1996年に退役していた事情があります。そしてこの為にM-8AGS機動砲が開発されていましたが、これは1996年に開発計画が中止されていました。
■M-10ブッカーの概要
 軽戦車ではないとしているアメリカ陸軍ですが元々はグリフィンⅡ軽戦車が原型車両となっている。

 アメリカ陸軍に採用されたM-10ブッカー装甲機動砲について。これはジェネラルダイナミクスランドシステムズ社が開発したグリフィンⅡ軽戦車で、もともとの設計はスペインとオーストリアが共同開発したASCOD装甲戦闘車の軽戦車型です。ASCODはオーストリアではウラン装甲戦闘車、スペインではピサロ装甲戦闘車として採用されています。

 ASCODの特色は、異なる整備補給体系を持つ採用国への適合であり、この開発でもオーストリアはシュタイアダイムラープフ社、スペインではエンプレサナショナルサンタバーバラ社が製造しており、基本設計は同じですがエンジンや変速装置と駆動系については採用国が既に採用しているエンジンを自由に組み込める冗長性が確保されているのは特徴です。

 エイジャックス装甲偵察車としてASCODはイギリス陸軍の偵察車輛に採用、ただ、振動などがイギリス仕様では相殺できず乗員が騒音と振動で発狂する懸念から実用化が遅れているという装備でもあります。また、フィリピン陸軍がイスラエル製105mm砲塔をASCODの車体に搭載したサブラ軽戦車を採用するなど近年に入り採用国が増えている装備です。
■装甲機動砲大隊
 師団に戦車大隊の様に配備されるもよう。

 アメリカ陸軍の軽歩兵旅団戦闘団へのM-10ブッカー装甲機動砲の配備について、現在の計画では師団単位で装甲機動砲大隊が編成される計画で、旅団ごとに14両のM-10装甲機動砲が配備されるとのこと。現在の計画では陸軍全体で504両が量産される計画で、LRIP初期低率生産では先ず96両を製造、最初の量産車両納入は2023年末が予定されている。

 機動砲大隊は2030年までに4個大隊が編成され、2035年までに計画されている504両の生産を完了させるという。ASCOD装甲戦闘車の車体設計が応用されてますが、装甲戦闘車のような後部の兵員室と直結する乗降扉は無く、この為にM-10そのものについてもNGCV次世代装甲戦闘車、M-2ブラッドレイ装甲戦闘車の後継車両候補とはなっていません。

 ASCOD装甲戦闘車の設計を応用しているM-10ですが、その製造は砲塔システムがニューヨーク州のウォーターブリート工廠で、車体部分はミシガン州のジェネラルダイナミクスランドシステムズ社工場で組み立てられ、アラバマ州アニストン陸軍補給処にて車体と砲塔部分を接合、そして最終的にオハイオ州リマの装甲車両デポにおいて完成するとのこと。
■ブラッドレイ後継
 ブッカーがASCOD派生型となりましたがさてその車両はどう応用されるのでしょうか。

 アメリカ陸軍は2030年までにブラッドレイ装甲戦闘車後継有人戦闘車両を選定すると6月26日に発表しました。車種はまだ選定されていませんが、開発名称としてXM-30MICV機械化歩兵戦闘車両としています。この開発にはアメリカンラインメタルビーグルズ社、ジェネラルダイナミクスランドシステムズ社のどちらかが対応することになっています。

 ジェネラルダイナミクスランドシステムズ社はスペインとオーストリアが共同開発したASCOD装甲戦闘車を基に開発したM-10ブッカーMPF装甲機動砲をアメリカ陸軍へ納入しており、アメリカンラインメタルビーグルズ社はドイツへプーマ装甲戦闘車を納入しているラインメタル社の現地法人、アメリカ陸軍はプーマ装甲戦闘車に注目している。

 XM-30MICV機械化歩兵戦闘車両について、陸軍は確たる方針を示していませんが、基本的に50mm砲と対戦車ミサイル搭載の遠隔操作砲塔を搭載し、歩兵は6名を収容し乗員は2名、車体は装甲に加えアクティヴ防護装置により敵対戦車ミサイルに対応できる性能、またインテリジェント射撃統制能力などを盛り込んだもの、と方向性を示しています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ情勢-タウルスKEPD-350空中発射巡航ミサイル供与巡るドイツ国内議論とロシア自爆無人機

2023-08-21 07:00:34 | 防衛・安全保障
■防衛情報-ウクライナ戦争
 射程の長いミサイルは国産開発しておかなければなりません。

 ドイツ政府はウクライナへのタウルスKEPD-350空中発射巡航ミサイル供与をめぐり揺れています。イギリスとフランスがストームシャドウ空中発射巡航ミサイルを既に供与しており、ドイツ政府もこの種の装備供与を求めるドイツ国内世論と、ロシアを刺激しないようにとの慎重論に板挟みとなっていますが、なによりこのミサイルの射程の大きさ。

 タウルスKEPD-350空中発射巡航ミサイルはトーネード攻撃機にユーロファイタータイフーン戦闘機やF-15Eストライクイーグル戦闘爆撃機などから投射するスタンドオフ兵器で射程は500㎞とストームシャドウミサイルの倍程度あります。この為、ドイツ国内慎重論からは、射程を短縮できないかを検討すべきとされていますが、現実的ではありません。

 500㎞という射程がドイツ政府やドイツ議会を二分する背景には、ウクライナ北部国境からモスクワまでの直線距離が450㎞であり、Su-24戦闘爆撃機によりハリコフ州上空から発射した場合、多雨留守巡航ミサイルはロシア首都モスクワまで到達する、この為にモスクワ攻撃にドイツ供与ミサイルが使われることを強く懸念しているのが実態のようです。
■シャヘド自爆用無人機
 日本の無人機対策をどのように進めるべきか。

 ロシアが国産化を試みるイランのシャヘド自爆用無人機のコピーが失敗している可能性がある、イギリス国防省ウクライナ戦況報告8月16日版にその分析が示されています。これによれば、ロシアはコピー版シャヘド無人機の性能が不均質であり、兵器システムとして未完成の段階にある、これが結果としてウクライナ軍により大半が撃墜されている。

 シャヘド自爆用無人機のコピーについては、生産初期の段階に数多い品質管理の問題であり、数か月以内に完成したコピー機を製造できる可能性があるとイギリス国防省は分析していますが、逆にその数か月間は少なくともカスピ海軽油でイランよりロシアへ輸出されるシャヘド無人機部品やシャヘド無人機本体へのロシアが依存することを示します。

 ただ、ロシア政府の自爆用無人機国産化への意志は固く、ロシア国内で製造された精度が低い一種の過渡的な装備も買い上げ実戦に投入しており、現在は半導体ロシア禁輸措置などに参加する諸国により製造は抑えられていますが、早晩精度をイラン製と同程度に高めたものの量産体制を固める可能性があり、射程の大きさから周辺国の脅威となるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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