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島嶼防衛用高速滑空弾とは【3】INF中距離核戦力全廃条約枠組解消後の大陸脅威へ選択肢

2020-07-27 20:10:08 | 先端軍事テクノロジー
■島嶼防衛用から列島防衛用に
 島嶼防衛用高速滑空弾は可能性を秘めた装備と云えます、その可能性とは列島防衛用装備へ昇華し得る、ということ。

 島嶼防衛用高速滑空弾、射程は2013年に産経新聞報道において陸上自衛隊の南西諸島防衛用に検討している短距離弾道弾、という報道の際に射程が500km程度に抑えられている為にこの程度に収められるのではないか、とはこの特集の第一回に提示しました。しかし現在は2020年であり、実はこの500kmという射程についてはもう一考の余地もあるのです。

 島嶼防衛用高速滑空弾がF-15戦闘機に搭載できる水準の大きさで有れば、F-15戦闘機に搭載し高高度まで発射点を戦闘機が持ち上げ、そこから投射した場合、射程をかなり延伸できる可能性があるのです。島嶼防衛用高速滑空弾をF-15に搭載するという提案、かなり突飛に思えるかもしれませんが、実のところ先例があります、ロシアにおいて実現しました。

 アバンガルドミサイル、MiG-31から投射する空中発射弾道弾として射程を大幅に延伸する方式については、前回紹介しましたが、今後はINF中距離核戦力全廃条約枠組破綻後に、この種のミサイルが増大する可能性がある。自衛隊の能力として、ロシアや中国が中距離弾道弾を大量保有した場合にどれだけ抑止力となるかは疑問ですが、何もないよりは良い。

 INF中距離核戦力全廃条約、1987年に米ソ間で締結された核戦力運搬手段に関する規制条約です。そしてアメリカ政府はロシアがこのINF中距離核戦力全廃条約に違反しているとして、この効力の枠内にアメリカが囚われる事は無意味であると共に中国などが米ロが自縛している最中にINF中距離核戦力に当る装備体系を開発している、として離脱しました。

 550kmから4500km、このINF中距離核戦力全廃条約というものは550km以下の射程のものを短距離核戦力として、また4500km以遠の射程を有する陸上発射型の装備を戦略核兵器に区分しまして、550kmから4500kmまでの射程の陸上発射型巡航ミサイルや弾道弾等を廃止する、とした条約枠組がINF中距離核戦力全廃条約です。此処に注目をしたい。

 自衛隊が周辺国に脅威を与えないように、として500kmという射程を提示したのは、もっとも日本はINF中距離核戦力全廃条約締約国でありませんし、何より核戦力の大本となる核兵器については保有は勿論開発計画さえありません、しかし、ロシアに条約離脱の口実、アメリカの同盟国がこの種の兵器を開発している、そんな、口実を与えない目的はないか。

 3M14TEカリブル巡航ミサイル。これはロシアが2016年にシリア内戦介入に際してカスピ小艦隊のコルベット艦上からシリアへ発射したミサイルですが、当初このカリブルシリーズはINF中距離核戦力全廃条約への関係から射程が300km程度と目されていたものが2500km以上飛翔してシリア反政府勢力拠点まで到達、アメリカはじめ世界を驚かせました。

 さて。自衛隊の島嶼防衛用高速滑空弾は、このINF中距離核戦力全廃条約に兵器開発を制限されているアメリカとロシアへの影響度を考えた上で要求されたのであれば、射程は500km程度となるのかもしれません、しかし、この大本となった枠組が瓦解したのであれば、可能性として中国の東風17号型に対抗する1000km程度の射程も、あり得ましょう。

 AGM-158-JASSMとAGM-158C-LRASM。さて、上記の500kmという射程は現在の地対艦ミサイル射程が200km程度である事を考えれば専守防衛の観点から行きすぎではないのか、と思われるかもしれませんがAGM-158-JASSMが射程370km、AGM-158C-LRASMの射程は800km、この二つのミサイルをスタンドオフミサイルとして自衛隊は導入します。

 AGM-158-JASSMとAGM-158C-LRASM。これらはAGMと有る通り航空機から投射するものですので島嶼防衛用高速滑空弾と同一に比較する事は出来ませんが、500kmという射程のミサイル、そして1000kmという射程も、スタンドオフミサイルの導入が開始される新たな自衛隊の装備体系から見た場合は、長すぎる、といものでは必ずしもありません。

 INF中距離核戦力全廃条約の破綻、この条約破綻によりロシアは1987年以来となる東京を射程とする地上発射型弾道弾を再整備する機会を得ました。島嶼防衛用高速滑空弾は、こうした脅威に際し、勿論通常弾頭では何が出来るのかという本質的問題がありますが、改良型や空中発射型を開発の場合、一種の抑止力を構築する事が出来るのかもしれません。

 もっとも僅かな可能性としてINF中距離核戦力全廃条約が、11月のアメリカ大統領選挙後に再構築される可能性、アメリカでの政権交代の可能性を含め、在りますし、またトランプ大統領が求めるINF中距離核戦力全廃条約への中国参加による枠組再構築、という可能性もあります。しかし、成り立たない場合、迫られる事態へ選択肢を持つ事となるのです。

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3 コメント

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Unknown (軍事オタク)
2020-07-28 10:01:08
射程500キロの島嶼防衛用高速滑空弾なんて短すぎて駄目だと思います。
公明党を切ってでも大遠距離の敵地攻撃能力を持つべきですね。
返信する
問題ないのでは?: (ドナルド)
2020-07-28 22:02:46
技術は育てるものです。

射程500 km の高速滑空弾、別に良いと思いますが。何より、射程1000 kmのものより、大幅に安価になるでしょうから、より多数を揃えられます。量産効果も入れれば、同じ値段で3倍くらい買えるのでは?

長射程については、JASSMやLRASMをF35から発射するのをメインとし、米軍の原潜からの巡航ミサイルなどに依存しても良い。

長射程は結構ですが、個人的には南西諸島にA2AD的な仕組みを構築する方が大事と思います。そして「仮想敵国」(決して敵国ではない)は超大国であり、防衛側のA2AD兵器は当然数が必要なので、簡素&小型であることはそれだけでメリットです。当然ですが、10発や20発撃ったところで、相手はこゆるぎもしないわけです。100発でも足りない。1000発は配備しないといけないのですから。

射程などに多くを望み、高コストとなって量産数が減り、試験もろくにせず技術の成熟が遅れる、なんてことになれば、まさに張り子の虎になります。
返信する
Unknown (軍事オタク)
2020-07-29 10:52:43
陸上発射型で500キロ程度のミサイルでは、
九州から北朝鮮には届かない、沖縄本島から中国本土にも届かないからダメだと思います。
それこそ島嶼間(沖縄から尖閣等)での滑空弾であれば説明がつきますが敵基地攻撃ではない。
台湾が対中国の保有なら有効だと思います。
なので500キロでは日本から韓国以外には敵基地攻撃能力にならないですね。

巡航ミサイルや滑空弾は2000発以上必要だと思います。
核兵器を今後も持たないのであればなおさらです。

陸上車両から射撃できるタイプを多めに配備がいいと思います。
F-35やF-15、F-3、哨戒機・艦艇・潜水艦にも装備すべきですが、基地や港湾を先制攻撃で破壊されると運搬手段を奪われます。
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