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自衛隊サイバー戦と自衛官募集難【2】令和の自衛隊員募集難と少子化時代の曹候補生制度

2019-12-12 20:11:09 | 防衛・安全保障
■自衛隊は遣り甲斐ある職場
 自衛隊の話ではないのですがやりがいだけを強調する事をやりがい搾取という。さて令和時代に現在の自衛隊が平成時代ほど若者に選ばれない背景には何があるのか。

 自衛隊の募集難、ここ数年間は少子高齢化による特に少子化の打つ手無き深刻化を前に民間企業が2000年代前後とは比較にならない程の条件を提示して人材獲得に躍起となっており、防衛省自衛隊は後塵を拝しています。後塵を拝している構造の背景には、自衛官の和解定年、自衛官候補生制度と共に曹候補生制度という若年定年制度が影響している印象が。

 曹候補生制度、元々は曹候補士制度として入隊から一定期間を経て三曹に昇進が画定している事実上の終身雇用制度が自衛隊には在りました。しかし、免職にならない限りは必ず三曹に昇進できるという、名ばかり三曹の温床となった、こういう批判が部内に在りました。昇進試験を受け任期制自衛官から三曹となった陸曹との能力差が在った、というもの。

 しかし、曹候補士制度は人材を使い捨てとしない制度でもあったのですが、財務当局の視点からは曹候補士であれば任期制自衛官とは異なり多額の任期満了金を退職金として準備する必要がありません。終身雇用の可能性を示唆して任期満了金を断念させる制度であったとも、見方によっては言えるわけですね。そして遅刻等在れば一定期間に昇進できない。

 帰隊遅延、要するに門限ですが、これを一分二分遅刻する方は陸士の方には思ったよりも居るといいます。門限五分くらいならば、と所謂学生気分と云いますか渋滞や列車ダイヤなどによりぎりぎりの行動の結果、なのですが実は一分でも帰隊遅延は記録として残ります、これが陸曹昇進を若干でも遅らせる要因となるのですね。曹候補生制度の問題点です。

 曹候補士制度では、一定期間に陸曹昇進が叶わなかった場合に退職勧告、公務員の退職勧告というのは民間の肩たたきよりも意味が大きいのですが、離職に追い込まれるという。陸曹の枠と曹候補生制度枠は必ずしも全員分ではない為、若年定年として三十代前後で所謂新卒カードを棒に振ったまま社会に放り出される可能性がある、問題点は此処です。

 3K職場と云われた自衛隊、曹候補生制度前の曹候補士制度はそんな職場でも終身雇用の道が用意されていましたが、現在は無くなった、やる気が足りない三曹の排除を行う名目のもとで実質的に人件費縮減の方便が行使されていると批判されるものですが、募集難は、終身雇用ではない公務員と終身雇用が可能な民間企業が競争している構図が在るのですね。

 大型免許の名の下の募集。任期制自衛官であっても昭和と平成の時代には大型免許がMOS,部隊資格として取得できる強みは募集において大きな意味がありました。現在でも大型免許を取得できる意味は大きいのですが、任期制自衛官や曹候補生の全員が大型免許を取得できる確証もありません。そこで大型免許に代わる資格が必要になるのではないか、と。

 法務幹部を補佐するべく法科大学院へ部外研修として参加できる制度が在れば、自衛官になれば弁護士資格が取れるよ、と募集の強みとなります。防衛医科大学校に入れば無料で医師免許が取れるよ、と募集の強みとなります。ただ、これら資格は簡単に取れるものではありません、そこで現実性のある資格制度が、プログラミング、という事なのですね。

 義務教育でのプログラミング教育を“21世紀における算盤”として安倍政権は必修化を示していますが、このように政治が定着を求める程に必要性が高い一方、教育者としてのプログラミング教育人材の不足と英語義務化に続く学校カリキュラムの多重化による教育内容の低下、義務教育で受けたプログラミング教育だけで企業が求める水準となり得るのか。

 自衛隊であれば、プログラミング人材を必要としているばかりか、教育訓練を念頭とした運用が可能であり、しかも徴兵制を採らない我が国では全員が志願者ですので適性の選抜が可能ですし、集中教育を行う時間的余裕もあります。もう一つ、プログラミング教育を普遍化する事で自衛隊員が情報処理に長けた集団という印象を社会に示せればどうなるか。

 中央官庁や地方自治体は勿論、IT企業から街工場まで情報処理技能を有するプログラミング人材の人材不足は難題となってゆきます。そこで三十代まで情報処理に長けた組織で先端知識を持ち第一線にいた人材が中途採用市場に定期的に供給されるならばどうか。要するに任期制自衛官や曹候補生に情報処理技能があれば退官後に新卒以上の奪い合いとなる。

 プログラミング人材は有事の際は元より平時からのサイバー戦に必須人材ですし、車載端末から個人用端末まで電子装備の運用に必須であり、兵站から作戦上の情報処理まで必要な技能です。対応する人材を大量に養成、悪い話ではありません。需品科や輸送科に武器科や通信科隊員は勿論、普通科や特科隊員まで広く教育を行う必要はあるように思います。

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3 コメント

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Unknown (ねこまんま)
2019-12-12 22:45:15
プログラムはロジカル脳を育てるだけなので、総合的なIT教育が必要です。
仕事は給料が一定水準を越えていれば、仕事を好きで選ぶ人は出てくると思います。
地方の大きな都市の近郊に基地を作れば、東京や大阪等と比較すれば、低賃金で人が雇えます。
地方に住んでいる問題は、講習会等の勉強を受ける機会が少ない点です。
その点は警察と手を組んで、有名なIT講師を呼ぶなどして、定期に高度なサイバー教育が受ける事ができれば大丈夫です。
入隊してからの教育制度が充実していれば、人は集まると思います。
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OJT (はるな)
2019-12-15 23:39:16
ねこまんま 様 こんばんは

プログラミング人材の育成、不足が強調されつつ何処も適材適所の施策を打てない実情がありまして、先ずは指導要員不足が。講師ですが、システム開発を行う部隊がありますので、ここを母体にOJT方式で実務と併せ要員を増やす事は他の官庁や企業ほど難しくは無いと思うのですよね、だからこそ、自衛隊にも志願者にも企業にも利益の出る施策と、なり得ないかな、と思います
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Unknown (元自)
2020-01-10 17:57:28
広報官に勧められて入隊しました

高卒時免許を取っていなかったので自衛隊で取れるという話をされました

しかし入隊したらどうでしょう
空自だったのですが、新隊員教育を受けた後の部隊配置後に「この職種じゃ免許は取れないよ」と言われました

「自衛隊に入れば免許を取れる」は半分正解で半分嘘ですね。

騙される人間は大勢いたでしょう
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