◆本州最峡部寸断へどう対処するか
安土桃山時代の天正地震は本州最峡部である伊勢湾から若狭湾に掛けて甚大な被害を及ぼしました。
その巨大地震の存在の可能性を元に防災計画を建て、特に自衛隊が災害派遣において求められる能力を大規模災害へ併せ整備することは、我が国の防災面での脆弱性を払拭することに一面で寄与しますが、もう一面では統合輸送能力と後方支援能力の強化で自衛隊が抱える一つの問題を解決する視点を供することが出来るかもしれません。
天正地震の被害範囲、伊勢湾から若狭湾に掛けての地域は日本列島本州島の最峡部に当たる地域で、此処に再度同様の巨大地震が襲った場合、本州が東西に寸断される可能性が非常に高いと言わざるを得ません。そしてこの地震は直下型地震であったため、活断層周辺以外の被害は広域化しなかった反面、その周辺の被害は激甚となりましたため、その再来を想定した場合も市街地の被害の大きさは無視できません。
この直下型地震でありながら被害の広域化を招いた背景には、活断層の一つが破砕した際の熱量を基点として内陸部直下型地震を引き起こす活断層が連動し破砕したため、海溝型地震でしか広域化しないという一つの観念を打ち壊すほどの地震を引き起こしたことが挙げられるでしょう。
この問題点は、勿論ほかの地域においてもこうした連動型内陸地震の発生の危険性を指摘することも出来るのですけれども、併せておきな問題としては激甚な被害を被る地域、阪神大震災の神戸市東灘区のような激しい揺れに襲われる地域が広域化する点、天正地震の発生震源近くには、福井市、金沢市、岐阜市、名古屋市、津市等の市街地があることを踏まえて考えねばなりません。
この指摘に対して、現代の建築物は耐震構造を基本としているため、救援の手が差し伸べられるまで、倒壊被害を過大に見積もるのは如何なものか、という指摘はあるやもしれませんが、天正地震は長浜市や敦賀市に津市等で地盤沈下による海没被害が判明しており、飛騨市や郡上市では地滑り被害が判明していて、如何に耐震構造とて地盤毎海没したり、山岳崩壊に巻き込まれては打つ手なしです。
したがって、この種の被害に際しても対応の迅速さが求められることとなり、特に膨大な作業能力を有する民間土木建築会社による道路復旧能力に頼り民間輸送網の再構築をいち早くはかるほか対処法がありません。すると、その作業が実施され完了するまでの期間の被災者の生存に必要な資材を確保することが自衛隊に求められるでしょう。
当然の話として、大都市や市街地にはそれなりの武士の貯蔵能力がりますので、必ずしも数百万に登る被災地域の物資輸送を民間が輸送でき無い分野においてすべて自衛隊が輸送する必要はないのですが、従来の災害派遣、人命救助や物資輸送による災害派遣という概念のもとでの派遣計画では対応する事は出来ないかもしれません。
なにより、東名高速、名神高速、新名神、東名阪といった道路網も直下型地震の被害地域に入ることで、本州最峡部の寸断という地震被害を想定しますと、陸上交通網が制約されるため、実質的に島嶼部防衛のような状況に準じた状況が発生し、不整地突破能力や空輸と海上輸送能力を充実させる必要が出てきます。
特に海上輸送能力について、過去の災害派遣において既存の輸送艦勢力では海上輸送能力が不足することは自明であるため、輸送艦と、特に輸送艇や揚陸艇のようなきめ細かな輸送能力の整備、そして揚陸の他に例えば陸上における武力攻撃事態などでの大規模物資戦略輸送を船舶により行える能力を整備するなどし、海上機動力を強化せねばなりません。
特に自衛隊として、整備する防衛力が災害派遣に転用する際、どの程度の輸送能力を発揮することが出来るかの数値目標を明示する必要性を同時に示していて、更に防災行政の一環としてその輸送力が防災上必要な水準であるのか、自治体や行政としてどの程度、自衛隊でなければ輸送できない任務が、どの程度の期間に渡り存在するのかも明示されるべきでしょう。
防衛省にとり第一の任務は防衛であり、防災は副次的な任務であるため、割ける予算などには上限がある、という指摘もあるでしょうが、併せて自衛隊統合演習や協同転地演習では自衛隊の輸送能力が充分すぎる、という指摘よりはむしろ不足している、という印象があり、災害と共に自衛隊としてどの程度の機動力を展開するのか、情報収集はどうするのか、通信などの基盤をどう構築するか、考えるべきもの。
輸送、実はこの任務ですが、非常に重要である半面、陸海空は統合運用しなければ輸送能力を整備し発揮できない反面、例えば陸上自衛隊が一定水準の部隊の海上輸送能力と空輸能力を求めたとしても、海上自衛隊が輸送艦に、航空自衛隊が輸送機に回す事の出来る予算には限界があり、加えて輸送機等は自前での輸送需要に応える必要もあるため、有事の際には輸送機の取り合いとなる可能性さえあるほど。
例えば、陸上自衛隊の輸送に活躍するチャーター高速輸送船等を例に挙げれば、あれを自衛隊が装備すればよいのに、という声がある半面、膨大な燃料費と運用維持費用を輸送単能で他の装備体系とも適合せず、護衛も自衛も難しいものを陸海空何処が分担するのか、という単純ながら最も切実な問題を解決できないため、現実味を帯びるに至りません。
この問題は、安易に自衛隊の輸送力不足を背景として空輸能力と海上輸送能力の強化を指摘するばかりではあると批判されるでしょうが、現時点での災害派遣は想定される被害ではなく、自衛隊が保有する装備を最大限活用し救援する、という水準を出るものでは必ずしもない、という点に難点がある、と考えるところ。
想定脅威、という部分になるのですが、例えば防衛計画では想定脅威に基づき自衛隊は防衛力を整備しています。そして阪神大震災や東日本大震災に伊勢湾台風といった過去の地震や台風被害などは自衛隊の持つ能力が、武力攻撃事態を想定し整備された防衛力の装備品、その範囲内で対応できるものだった、というもの。
問題は、歴史地震が示す脅威は自衛隊の防衛力を持って対応したとしても、その能力の限界を超えている被害を及ぼすのではないか、という部分にあります。そのため、輸送能力を強化することで、歴史地震の再来という想定脅威に対応する観点から、自衛隊を強化するという視点を提示してみました。
こうした指摘に対しては単に災害派遣にかこつけて自衛隊の強化をめざしているだけではないのか、巨大地震への対応を念頭に自衛隊の後方支援体系における最大の問題点を解決しようとしているだけではないのか、という指摘もあるかもしれませんが、輸送不足は本質的に変わりません。
輸送の量だけを明示したとしても、物資の管理能力や情報の一元化など、補給と輸送は連関しているモノでありながらも同一ものもではないため、輸送力さえ確保すればすべて解決、とは当然ならないのですけれども、一にも二にも輸送力を確保しなければ、その輸送力を活用したものとする事は出来ず、この点の理解が必要でしょう。
非常時の輸送能力のほか、野戦救命救急能力や不整地突破能力など、防災に必要とされるこのほかの能力は、消防警察や行政防災機構に整備するには手に余る装備ですが、逆に自己完結の能力講師を求められる軍事機構であるからこそ保持と整備に正当性が当てはまる分野でもある。
輸送力不足は、南西諸島有事と以前扱った八重山地震型の沖縄トラフ地震の部分で重複するものであり、その他の統合輸送能力はこの天正地震による本州分断という可能性に対して求められるものと、他の有事を想定したものとも重ねることは可能です。
こうしたこともあり得る、という側面の下で、もちろん、過剰な防衛力整備は財政を直撃しますので、行き過ぎはあってはならないものではあるのですが、後方支援と輸送力の整備への統合運用や、一歩進んだ統合整備、輸送能力についての需要はどの程度想定されるのか、考える価値はあるやもしれません。
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)