■週報:世界の防衛,最新11論点
防衛情報、今週はイージスアショアを筆頭にミサイル防衛や防空と地対艦ミサイルなどミサイル関連の最新11論点を視てみましょう。
自衛隊が導入を予定しているイージスアショア陸上配備型ミサイル防衛システムの代替装備として防衛省は多胴船型イージスシステム搭載艦を建造する方針を示した、4月28日付読売新聞が報じている。イージスアショア陸上配備型ミサイル防衛システムはミサイル迎撃の際に切り離したブースター部分が陸上の自衛隊敷地外に落下するとして中止された。
多胴船型イージスシステム搭載艦は洋上において安定したプラットフォームとなる利点があるが、既に防衛省が発注したSPY-7レーダーは海上配備用にアメリカ海軍が導入するSPY-6と異なり洋上運用を想定していない為、不具合の懸念が拭えない。これも含め、多胴船型イージスシステム搭載艦について、政府は民間企業へ調査研究を依頼するとのこと。
多胴船型イージスシステム搭載艦は海上自衛隊では音響測定艦ひびき型などで実用化されていますが、イージスシステムを搭載するには音響測定艦よりも船体は大型化すると思われ、アメリカ軍ミサイル防衛局のSBX海上配備Xバンドレーダーのような双胴船を想定しているのかもしれません。SBXは排水量50000t、弾道ミサイルを洋上で監視する装備です。
■ポーランドイージスアショア
日本も無理に新しくせず使い慣れたSPY-1を陸上配備していればと思う事もあります。
アメリカのMDAミサイル防衛局は6月22日、ポーランド国内へのイージスアショア陸上配備ミサイル防衛システム建設を開始したと発表しました。設置場所はポーランドのレジコボ基地です。MDAミサイル防衛局は2010年に東欧配備を決定、チェコに一カ所、ポーランドに二箇所イージスアショア陸上配備ミサイル防衛システム設置を発表しています。
イージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムは当初、イランから西欧地域を狙う弾道ミサイル防衛に充てる計画ですが、ロシア政府がNATOへの自国によるミサイル抑止力への重大な挑戦であるとして2010年より一貫して反発しており、NATOとの冷戦後の蜜月関係は一転しました。ただ、欧州地域は、新たに北朝鮮ミサイルの脅威に曝されています。
イージスアショアはレーダー部分と共に迎撃にはスタンダードSM-3を用いる事となっています。日本ではイージスアショア配備計画に際し落下するブースター部分の危険が問題となっていますが、ブースターが落下した場合よりは弾道ミサイル、特に核弾頭が落下し人口密集地で爆発した場合の方が危険は大きく、欧州ではそれ程、問題視されていません。
■SPY-1方式イージスアショア
ポーランドに新しく建設されるイージスアショアについて。
アメリカのMDAミサイル防衛局がポーランドのレジコボ基地に建設を開始したイージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムはSPY-1レーダーを採用します。SPY-1レーダーはタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦やアーレーバーク級ミサイル駆逐艦、こんごう型ミサイル護衛艦、あたご型ミサイル護衛艦、まや型ミサイル護衛艦に採用されているもの。
イージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムは日本でも建設に向けレーダーアンテナが既に発注されていますが、実績の無いSPY-7レーダーを採用する事となりました。SPY-1レーダーよりも探知距離が大幅に強化されているデータは存在するものの、アメリカ本土防空用にアラスカに設置される以外現時点で全く実績が無く、この点で対照的決定です。
■改良型中距離地対空誘導弾
改良型03式中距離地対空誘導弾は将来的に射程延伸型がペトリオットの後継となり得るのか気に成りますね。
陸上自衛隊は初の改良型03式中距離地対空誘導弾の配備を開始しました。これは4月16日に沖縄県の沖縄本島に所在する知念分屯基地において報道公開されたもので、第15旅団第15高射特科連隊隷下の第1中隊へ配備されたもの。03式中距離地対空誘導弾は改良ホークの後継として開発されたもので、改良型は射程等が従来よりも延伸しているとされる。
03式中距離地対空誘導弾改、通称“中SAM改”の配備は第15旅団が最初となります。03式中距離地対空誘導弾は沖縄本島に加え沖縄県内で宮古島及び石垣島へ配備されていますが、陸上自衛隊はこれらの03式中距離地対空誘導弾も順次改良型へ置き換えてゆく方針です。また03式中距離地対空誘導弾の射程延伸は今後も継続的に行われるとされています。
■M-SHORADストライカー
米軍の弱点は野戦防空、M-SHORAD防空型ストライカー装輪装甲車は海兵隊に提示された防句型LAV-25の様な立ち位置なのか本気なのか。
アメリカ陸軍は在独米軍部隊へM-SHORAD防空型ストライカー装輪装甲車の配備を開始した。M-SHORADには、MEP多用途砲塔にスティンガーミサイル四連装発射装置とM-914/30mm機関砲及びM-240/7.62mm機銃に加えロングボウヘルファイアミサイル2発を搭載し、IFF敵味方識別アンテナ及びGCS複合光学兼赤外線照準装置を搭載している。
M-SHORAD防空型ストライカー装輪装甲車の配備は4月、在独米軍の5/4防空砲兵大隊こと代4防空砲兵連隊第5大隊へ配備されており、在独米軍のミサイル防衛強化に資するとのこと。M-SHORAD防空型ストライカー装輪装甲車には弾道ミサイル迎撃は不可能ですが、ペトリオットミサイルを自爆型無人機等の攻撃から防護する運用が考えられるでしょう。
■NASAMS-AMRAAM-ER
自衛隊の03式地対空油満天星射程延伸の話題と共に所謂西側のミサイル装備体系で最大射程がロシアと比べ少し短いように思える。
アメリカとノルウェーが共同開発する中距離防空システムNASAMS-AMRAAM-ERは2021年5月、初の発射試験を完了させました。これはアメリカのレイセオンミサイルディフェンス社とノルウェーのコングスベルク社が共同で実施するもので、AMRAAM空対空ミサイルを地対空ミサイル型としましたコングスベルク社製NASAMSの最新改良型です。
NASAMS-AMRAAM-ERは射程延伸型のAMRAAM-ERをNASAMSミサイルシステムへ適合化させたもので、発射試験はノルウェーロフォーテン諸島最北部のアンドーヤロケット発射場にて実施されています。これは発射装置への適合性を試験したもので、NASAMSのレーダーシステムへの適合試験は年内に再度実施、2022年に開発を完了する計画です。
■ルーマニアNSMミサイル導入
自衛隊の地対艦ミサイルと立ち位置的に同じものですが地対艦ミサイルという新しい潮流が周辺情勢にどう影響するのか。
ルーマニア軍は黒海防衛強化の為にノルウェー製NSM海軍打撃ミサイルの導入を発表しました。NSMミサイルは地対艦ミサイルで元々はノルウェーのコングスベルク社により同国海軍が運用したペンギンミサイルの後継として開発されていますが、現在はレイセオンミサイルディフェンス社が供給を担当します。このミサイルは地形追随飛行能力を持つ。
NSM海軍打撃ミサイルはトラックにより機動し沿岸部から射程180kmの打撃力を発揮します。アメリカ海兵隊などでも島嶼部戦闘へ有用性の高い次世代装備と見做されており、ルーマニア軍は2024年までに配備開始する計画です。ただ、ルーマニア軍の配備要求数は2億8600万ドルと見積もられており、経済的な問題が配備を遅らせる可能性はあります。
■ルーマニアペトリオット採用
アメリカとの相互互換性を考えた結果なのでしょうが、東欧諸国は最近西欧装備よりもアメリカ製装備を重視しているように見える。
ルーマニア陸軍は2022年にレイセオン製能力向上型ペトリオットの受領を開始する。ルーマニア軍は黒海沿岸部の緊張増大を受け2020年にペトリオットミサイルの緊急導入を発表、これを受けて、アメリカ政府及びレイセオン社は記録的とされる迅速な供給実施により2020年9月にペトリオットミサイル一個中隊所要をルーマニア軍へ配備する事となった。
ペトリオットミサイル能力向上型はレーダー情報処理能力や戦闘指揮装置及び指揮統制能力に関してプログラム能力向上が行われているとのこと。2022年に新しく導入される一個中隊が能力向上型であり、更に現在運用しているルーマニア軍一個中隊も能力向上型へ改修されるとのこと。黒海はウクライナ東部紛争やロシアシリア展開の影響を受けています。
■LRSO戦略スタンドオフ兵器
日本のスタンドオフミサイルシステムより一桁上での導入計画がアメリカでは進む。
アメリカ空軍はLRSO戦略スタンドオフ兵器システムの開発についてレイセオン社と20億ドルの契約を結びました。この契約は最終段階に当るEMD製造開発フェーズにあたるものとされています。LRSO戦略スタンドオフ兵器システムは戦略爆撃機などに搭載する核弾頭搭載の空中発射巡航ミサイルで、射程は1500マイル即ち2414kmを発揮するもの。
LRSO戦略スタンドオフ兵器システムは正式名称をAGM-129A、ステルス性と超音速巡航能力を有しており、現在運用されるAGM-86空中発射巡航ミサイルが2030年代に退役するのに合わせて開発されており、現在搭載が計画されているのはB-52ストラトフォートレス戦略爆撃機、そして開発中のB-21レイダー戦略爆撃機へ搭載される計画となっています。
B-21レイダー戦略爆撃機とB-52ストラトフォートレス戦略爆撃機が提示されていますが、B-1ランサー戦略爆撃機とB-2アメリカンスピリッツ戦略爆撃機の名が提示されていません、これは爆弾倉に搭載できるかというLRSO戦略スタンドオフ兵器システム筐体そのものの大きさとともにこの二機種の爆撃機の将来展望が示されているとも理解できましょう。
■AGM-183AARRW
日米の想定戦域が重なり装備互換性を真剣に考えると、日本の装備体系の射程などに関する基本的な考えはこのままで良いのかと素朴な疑問を感じる時があります。
アメリカ空軍はAGM-183AARRW極超音速ミサイル初の実弾頭発射試験を実施しました。支援はフロリダのエグリン空軍基地第780実験飛行隊がB-52ストラトフォートレス戦略爆撃機による発射試験を成功させました。AGM-183AARRWは4月にも南カリフォルニア沖ポイントマグ訓練海域にて試験を実施していますが、この際には発射に失敗している。
AGM-183AARRW極超音速ミサイルは空中発射高速応答兵器とも称される新世代のミサイルであり、脅威情報に際し即応し発射すると共に極超音速により極めて短時間で目標に対処可能となっています。アメリカ空軍ではAGM-183AARRWと同時期にAGM-129Aを開発していますが、AGM-183AARRWは通常兵器、AGM-129Aは核兵器という点が違います。
■米海兵隊トマホーク導入
島嶼部防衛で南西諸島を考えますと日本も今後ミサイル主義時代へ転換してゆくのでしょうか。
アメリカ海兵隊はNSM地対艦ミサイルに加えて新たにトマホーク巡航ミサイルの導入を開始します。アメリカ海兵隊が導入するトマホーク巡航ミサイルはRGM-109EとUGM-109Eであり、48発を9600万ドルで取得するとのこと。これらはアメリカ海軍で運用、射程1670kmと海兵隊が導入する地対艦ミサイルよりも射程が大幅に延伸しています。
トマホーク巡航ミサイル、アメリカ海兵隊では地上発射型ミサイルとして運用しますが、これは近年特に重視する太平洋地域での島嶼部戦闘において水上戦闘艦に依存しない海兵隊の打撃力強化を目指す施策の一環、射程1670kmは1987年の中距離核戦力全廃条約加盟により通常弾頭型でも地上配備は出来ませんでしたが、トランプ政権時代に脱退しました。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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防衛情報、今週はイージスアショアを筆頭にミサイル防衛や防空と地対艦ミサイルなどミサイル関連の最新11論点を視てみましょう。
自衛隊が導入を予定しているイージスアショア陸上配備型ミサイル防衛システムの代替装備として防衛省は多胴船型イージスシステム搭載艦を建造する方針を示した、4月28日付読売新聞が報じている。イージスアショア陸上配備型ミサイル防衛システムはミサイル迎撃の際に切り離したブースター部分が陸上の自衛隊敷地外に落下するとして中止された。
多胴船型イージスシステム搭載艦は洋上において安定したプラットフォームとなる利点があるが、既に防衛省が発注したSPY-7レーダーは海上配備用にアメリカ海軍が導入するSPY-6と異なり洋上運用を想定していない為、不具合の懸念が拭えない。これも含め、多胴船型イージスシステム搭載艦について、政府は民間企業へ調査研究を依頼するとのこと。
多胴船型イージスシステム搭載艦は海上自衛隊では音響測定艦ひびき型などで実用化されていますが、イージスシステムを搭載するには音響測定艦よりも船体は大型化すると思われ、アメリカ軍ミサイル防衛局のSBX海上配備Xバンドレーダーのような双胴船を想定しているのかもしれません。SBXは排水量50000t、弾道ミサイルを洋上で監視する装備です。
■ポーランドイージスアショア
日本も無理に新しくせず使い慣れたSPY-1を陸上配備していればと思う事もあります。
アメリカのMDAミサイル防衛局は6月22日、ポーランド国内へのイージスアショア陸上配備ミサイル防衛システム建設を開始したと発表しました。設置場所はポーランドのレジコボ基地です。MDAミサイル防衛局は2010年に東欧配備を決定、チェコに一カ所、ポーランドに二箇所イージスアショア陸上配備ミサイル防衛システム設置を発表しています。
イージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムは当初、イランから西欧地域を狙う弾道ミサイル防衛に充てる計画ですが、ロシア政府がNATOへの自国によるミサイル抑止力への重大な挑戦であるとして2010年より一貫して反発しており、NATOとの冷戦後の蜜月関係は一転しました。ただ、欧州地域は、新たに北朝鮮ミサイルの脅威に曝されています。
イージスアショアはレーダー部分と共に迎撃にはスタンダードSM-3を用いる事となっています。日本ではイージスアショア配備計画に際し落下するブースター部分の危険が問題となっていますが、ブースターが落下した場合よりは弾道ミサイル、特に核弾頭が落下し人口密集地で爆発した場合の方が危険は大きく、欧州ではそれ程、問題視されていません。
■SPY-1方式イージスアショア
ポーランドに新しく建設されるイージスアショアについて。
アメリカのMDAミサイル防衛局がポーランドのレジコボ基地に建設を開始したイージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムはSPY-1レーダーを採用します。SPY-1レーダーはタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦やアーレーバーク級ミサイル駆逐艦、こんごう型ミサイル護衛艦、あたご型ミサイル護衛艦、まや型ミサイル護衛艦に採用されているもの。
イージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムは日本でも建設に向けレーダーアンテナが既に発注されていますが、実績の無いSPY-7レーダーを採用する事となりました。SPY-1レーダーよりも探知距離が大幅に強化されているデータは存在するものの、アメリカ本土防空用にアラスカに設置される以外現時点で全く実績が無く、この点で対照的決定です。
■改良型中距離地対空誘導弾
改良型03式中距離地対空誘導弾は将来的に射程延伸型がペトリオットの後継となり得るのか気に成りますね。
陸上自衛隊は初の改良型03式中距離地対空誘導弾の配備を開始しました。これは4月16日に沖縄県の沖縄本島に所在する知念分屯基地において報道公開されたもので、第15旅団第15高射特科連隊隷下の第1中隊へ配備されたもの。03式中距離地対空誘導弾は改良ホークの後継として開発されたもので、改良型は射程等が従来よりも延伸しているとされる。
03式中距離地対空誘導弾改、通称“中SAM改”の配備は第15旅団が最初となります。03式中距離地対空誘導弾は沖縄本島に加え沖縄県内で宮古島及び石垣島へ配備されていますが、陸上自衛隊はこれらの03式中距離地対空誘導弾も順次改良型へ置き換えてゆく方針です。また03式中距離地対空誘導弾の射程延伸は今後も継続的に行われるとされています。
■M-SHORADストライカー
米軍の弱点は野戦防空、M-SHORAD防空型ストライカー装輪装甲車は海兵隊に提示された防句型LAV-25の様な立ち位置なのか本気なのか。
アメリカ陸軍は在独米軍部隊へM-SHORAD防空型ストライカー装輪装甲車の配備を開始した。M-SHORADには、MEP多用途砲塔にスティンガーミサイル四連装発射装置とM-914/30mm機関砲及びM-240/7.62mm機銃に加えロングボウヘルファイアミサイル2発を搭載し、IFF敵味方識別アンテナ及びGCS複合光学兼赤外線照準装置を搭載している。
M-SHORAD防空型ストライカー装輪装甲車の配備は4月、在独米軍の5/4防空砲兵大隊こと代4防空砲兵連隊第5大隊へ配備されており、在独米軍のミサイル防衛強化に資するとのこと。M-SHORAD防空型ストライカー装輪装甲車には弾道ミサイル迎撃は不可能ですが、ペトリオットミサイルを自爆型無人機等の攻撃から防護する運用が考えられるでしょう。
■NASAMS-AMRAAM-ER
自衛隊の03式地対空油満天星射程延伸の話題と共に所謂西側のミサイル装備体系で最大射程がロシアと比べ少し短いように思える。
アメリカとノルウェーが共同開発する中距離防空システムNASAMS-AMRAAM-ERは2021年5月、初の発射試験を完了させました。これはアメリカのレイセオンミサイルディフェンス社とノルウェーのコングスベルク社が共同で実施するもので、AMRAAM空対空ミサイルを地対空ミサイル型としましたコングスベルク社製NASAMSの最新改良型です。
NASAMS-AMRAAM-ERは射程延伸型のAMRAAM-ERをNASAMSミサイルシステムへ適合化させたもので、発射試験はノルウェーロフォーテン諸島最北部のアンドーヤロケット発射場にて実施されています。これは発射装置への適合性を試験したもので、NASAMSのレーダーシステムへの適合試験は年内に再度実施、2022年に開発を完了する計画です。
■ルーマニアNSMミサイル導入
自衛隊の地対艦ミサイルと立ち位置的に同じものですが地対艦ミサイルという新しい潮流が周辺情勢にどう影響するのか。
ルーマニア軍は黒海防衛強化の為にノルウェー製NSM海軍打撃ミサイルの導入を発表しました。NSMミサイルは地対艦ミサイルで元々はノルウェーのコングスベルク社により同国海軍が運用したペンギンミサイルの後継として開発されていますが、現在はレイセオンミサイルディフェンス社が供給を担当します。このミサイルは地形追随飛行能力を持つ。
NSM海軍打撃ミサイルはトラックにより機動し沿岸部から射程180kmの打撃力を発揮します。アメリカ海兵隊などでも島嶼部戦闘へ有用性の高い次世代装備と見做されており、ルーマニア軍は2024年までに配備開始する計画です。ただ、ルーマニア軍の配備要求数は2億8600万ドルと見積もられており、経済的な問題が配備を遅らせる可能性はあります。
■ルーマニアペトリオット採用
アメリカとの相互互換性を考えた結果なのでしょうが、東欧諸国は最近西欧装備よりもアメリカ製装備を重視しているように見える。
ルーマニア陸軍は2022年にレイセオン製能力向上型ペトリオットの受領を開始する。ルーマニア軍は黒海沿岸部の緊張増大を受け2020年にペトリオットミサイルの緊急導入を発表、これを受けて、アメリカ政府及びレイセオン社は記録的とされる迅速な供給実施により2020年9月にペトリオットミサイル一個中隊所要をルーマニア軍へ配備する事となった。
ペトリオットミサイル能力向上型はレーダー情報処理能力や戦闘指揮装置及び指揮統制能力に関してプログラム能力向上が行われているとのこと。2022年に新しく導入される一個中隊が能力向上型であり、更に現在運用しているルーマニア軍一個中隊も能力向上型へ改修されるとのこと。黒海はウクライナ東部紛争やロシアシリア展開の影響を受けています。
■LRSO戦略スタンドオフ兵器
日本のスタンドオフミサイルシステムより一桁上での導入計画がアメリカでは進む。
アメリカ空軍はLRSO戦略スタンドオフ兵器システムの開発についてレイセオン社と20億ドルの契約を結びました。この契約は最終段階に当るEMD製造開発フェーズにあたるものとされています。LRSO戦略スタンドオフ兵器システムは戦略爆撃機などに搭載する核弾頭搭載の空中発射巡航ミサイルで、射程は1500マイル即ち2414kmを発揮するもの。
LRSO戦略スタンドオフ兵器システムは正式名称をAGM-129A、ステルス性と超音速巡航能力を有しており、現在運用されるAGM-86空中発射巡航ミサイルが2030年代に退役するのに合わせて開発されており、現在搭載が計画されているのはB-52ストラトフォートレス戦略爆撃機、そして開発中のB-21レイダー戦略爆撃機へ搭載される計画となっています。
B-21レイダー戦略爆撃機とB-52ストラトフォートレス戦略爆撃機が提示されていますが、B-1ランサー戦略爆撃機とB-2アメリカンスピリッツ戦略爆撃機の名が提示されていません、これは爆弾倉に搭載できるかというLRSO戦略スタンドオフ兵器システム筐体そのものの大きさとともにこの二機種の爆撃機の将来展望が示されているとも理解できましょう。
■AGM-183AARRW
日米の想定戦域が重なり装備互換性を真剣に考えると、日本の装備体系の射程などに関する基本的な考えはこのままで良いのかと素朴な疑問を感じる時があります。
アメリカ空軍はAGM-183AARRW極超音速ミサイル初の実弾頭発射試験を実施しました。支援はフロリダのエグリン空軍基地第780実験飛行隊がB-52ストラトフォートレス戦略爆撃機による発射試験を成功させました。AGM-183AARRWは4月にも南カリフォルニア沖ポイントマグ訓練海域にて試験を実施していますが、この際には発射に失敗している。
AGM-183AARRW極超音速ミサイルは空中発射高速応答兵器とも称される新世代のミサイルであり、脅威情報に際し即応し発射すると共に極超音速により極めて短時間で目標に対処可能となっています。アメリカ空軍ではAGM-183AARRWと同時期にAGM-129Aを開発していますが、AGM-183AARRWは通常兵器、AGM-129Aは核兵器という点が違います。
■米海兵隊トマホーク導入
島嶼部防衛で南西諸島を考えますと日本も今後ミサイル主義時代へ転換してゆくのでしょうか。
アメリカ海兵隊はNSM地対艦ミサイルに加えて新たにトマホーク巡航ミサイルの導入を開始します。アメリカ海兵隊が導入するトマホーク巡航ミサイルはRGM-109EとUGM-109Eであり、48発を9600万ドルで取得するとのこと。これらはアメリカ海軍で運用、射程1670kmと海兵隊が導入する地対艦ミサイルよりも射程が大幅に延伸しています。
トマホーク巡航ミサイル、アメリカ海兵隊では地上発射型ミサイルとして運用しますが、これは近年特に重視する太平洋地域での島嶼部戦闘において水上戦闘艦に依存しない海兵隊の打撃力強化を目指す施策の一環、射程1670kmは1987年の中距離核戦力全廃条約加盟により通常弾頭型でも地上配備は出来ませんでしたが、トランプ政権時代に脱退しました。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)