いま反数と入れようとしても半数にしか変換してくれない。私が反数という言葉を知ったのは遠山啓著「数学入門」(岩波新書)だった。
これは普通に使われている言葉ではなく、遠山啓の発明した用語だと思っていた。というのは少なくとも学校ではそんな言葉は習った記憶もなかったから。
その証拠にというわけではないが、矢野健太郎氏の著書「おかしなおかしな数学者たち」(新潮文庫)に数学者についてのエッセイがあって、その中で遠山啓についても取り上げており、遠山啓について感心したという中の一つに反数という造語があるとあった。それで、反数という語は遠山が考え出したとばかり思っていた(注)。
ところが、ごく最近ベルの「数学をつくった人々」(Men of Mathematics)(銀林浩訳)(東京図書)をぱらぱらとめくっていたら、反数という語が出ているではないか。
「あれれ」、反数は遠山のつくった用語ではないのかなと思った。
反数という訳語は銀林さんが遠山さんに極めて近い人だから、すんなりと出てきても不思議ではないが、少なくとも反数という語に対応する英語があるということはわかった。
ではあまり知られてはいないが、一般的な用語なのかなと思って広辞苑の第五版を引いてみたら、確かに反数という語が出ていた。前の版では出ているかどうかはわからないが、辞書に出ているということは一般的な言葉らしい。
では元の英語ではどういうのだろう。和英の辞書が手元にないので、調べることができない。
今度新しく出た「算数・数学百科」(日本評論社)にはもちろん反数の説明はあるが、その英語はない。岩波書店から最近出た数学教育辞典には反数という言葉さえ出ていない。
銀林浩、純著「数・数式と図形の英語」(日興企画)には出ているのではないかと思ったが、どこかにあるはずだが、いまちょっと見当たらない。
ということでそのままになっていたが、今朝ひょっと書棚をみるとこの本があった。それでこの本の29ページを見るとopposite(s)とあった。
反数とはなにか。それを説明しないで言葉にだけこだわってきたが、これは簡単なことである。ある数aがあれば、それに負の符号をつけた-aが反数である。また、掛け算に対してある数aに対して逆数1/aという語があり、これはよく知られている。
逆数という概念からすると、反数は足し算という演算に対する逆数と考えられる。
逆という概念を拡張していけば、数の逆数とはちょっと違ってくるが逆格子ベクトルなんてものも考えられる。それはそれで有用だが、数の場合と違って逆格子ベクトルは元のベクトル空間には属さず、双対ベクトル空間といわれる元のベクトルとは別のベクトル空間に属している。
(注:2010.7.14付記) これは私の覚え間違いで矢野氏の感心した用語は「反数」ではなく「倍分」であった。訂正をこのブログの数日後にしているが、ここの部分は話の都合から訂正をしなかった。