イリオモテヤマネコは国の特別天然記念物に指定されていることはよく知られていることだが、現地へ行ってみてイリオモテヤマネコが西表島においてかなり特別な存在であることを痛感した。
西表島でバスに乗っているときだった。路上に茶色い縞模様が見えてきた。そこをバスが通ると、ガタガタと小さく車体が揺れた。運転手さんによると「ゼブラゾーン」と称して道路に凹凸を付けているそうだが、目的は道路を車が通過していることをイリオモテヤマネコに知らせることだという。
※ 島内の道路の各所に設けられていたゼブラゾーンです。
このことが契機となって、運転手さんはイリオモテヤマネコを西表島全体でいかに大切に保護しようとしているかについて饒舌に語った。
イリオモテヤマネコは島全体で100匹程度しか生存していないと推定されているそうだ。
そのネコが路上で車に轢かれて死んだ動物たちを食しようと道路に現れ、そこで車の轢かれて死んでしまうケースが増えているそうだ。(年間3~4件の事故があるようだ)
そうしたケースを減らすためのゼブラゾーンであり、私たちは見ることができなかったが、道路の下にはネコが横断するための動物用トンネルも造成されているという。
※ 仲間川に架かる橋の欄干に設置されていたイリオモテヤマネコの石像です。(実物より大きい)
地元紙(八重山毎日新聞)ではちょうどイリオモテヤマネコの保護について研究者たちの会合があったことを報じていた。その記事には「ロードキルを減らせ!」という見出しが付いていたが、それはイリオモテヤマネコが路上で殺されることを防ごう、という呼びかけであった。
そのことを知った翌日、レンターカーで西表島内を走った。
すると、道路のそこかしこにイリオモテヤマネコに注意を促す道路標識が目立った。
その度に車をストップし、カメラに収め続けた。
※ 歩道脇をよく見てください。ネコの飛び出しを防止する黒いネットが張られています。
シャッターを押しながら思った…。
中国のパンダがそうであるように…。ニュージーランドのキーウィがそうであるように…。絶滅危惧種となっているイリオモテヤマネコを生体で捕獲し、人工的な増殖を図るという手立てはとらないのだろうか?そして、その生体の一部を飼育ゲージ越しに観光客にも見てもらう、というようなことは考えられないのだろうか?
関係者の間ではいろいろと議論が進んでいるのだろうが、何せ生存数が限られているため、現在はどこにも生きた形で捕獲されたイリオモテヤマネコがいないことも分かった。
1995年には保護増殖事業・調査研究の実施・普及啓発等を推進する「西表野生生物保護センター」が設置されたという。設置目的に「保護増殖事業」という項目があるので、きっと近い将来にはイリオモテヤマネコにとって福音となるニュースがもたらされるかもしれない。
イリオモテヤマネコは西表島にとってはシンボルである。そのシンボルの絶滅を防ぐために努力されている方々にエールを送るとともに、イリオモテヤマネコが島の永遠のシンボルとして在り続けることを願いたいと、島を訪れた一人として思ったのだった…。