キタキツネの生態を擬人化させたストーリーで厳しくも美しい自然を描いた映画は、公開当時大ヒットしたという。原作者の竹田津実氏(映画では動物監督)とは、同じ町に住んでいたこともあり、特別の親近感をもって観た映画だった。
9月12日(月)午後、「めだかの学校」の「映画の中の北海道」は1978(昭和53)年に公開された「キタキツネ物語」が取り上げられた。
実は「キタキツネ物語」には、2作ある。一つは1978年に公開されたオリジナル版である。もう一つはオリジナル版から35年後の2013年にリニューアル版として制作・公開されたものがある。
今回私が観たのはオリジナル版であるが、私は両方ともこれまでに観たことがあった。
この映画を解説書によってはドキュメンタリーと呼んでいるが、完全なドキュメンタリーとは言えないだろう。また、完全なドキュメンタリーだったとしたら230万人も動員する大ヒット映画になったかは疑問である。
この映画の大ヒットの要因は、キタキツネの生態を追い続けた膨大なフイルムを編集し、キツネたちを擬人化させたうえで、一つの物語として構成したことが大ヒットの要因だと私は思う。
映画が誕生した背景には、オホーツク管内小清水町で獣医師をしていた竹田津実氏の長年にわたるキタキツネの生態観察がある。
私は竹田津氏が獣医師をしていた小清水町に8年間在住した経験があった。そのときすでに「キタキツネ物語」は公開され、竹田津氏は地元において時の人となっていた。
氏は地元でも気軽に講演をしてくれ、私も何度か聴く機会を得た。氏のユーモアに富んだお話から、キタキツネのみならず、さまざまな野生動物の生態をお聴きすることができ、氏の野生生物に対する慈愛の深さを知ることができた。
お話の中で、映画の中で罠にはまって血を流したり、銃で撃たれてキツネが死んだりするシーンは、全て偽装であり、キツネにはまったく危害を与えていないということだった。
また、撮影には竹田津氏が長年の観察から得たキツネの習性を利用して撮影したところがかなりあったという。
ここまで書くと、竹田津氏がこの映画に関わった理由が見えてくる。氏は単にキタキツネの生態を美しく描くだけではなく、野生生物のおかれている厳しい現実、野生生物のおける親子愛などを描くことによって、野生生物を慈しむ気持ちを観る人の中に育ててほしい、という切なる思いが背景にあることが分かってくる。
映画公開から40年近く経った今観ても、少しも色あせることなく制作意図の素晴らしさが伝わってくる映画だった。