習近平が国のトップに君臨する隣国中国は、世界の覇権を握るのではないかと危惧されるほどの伸長ぶりを見せている。中国ウォッチャーである講師が、これまでの中国、そしてこれからの中国について興味深く語ってくれた。
7月16日(月・祝)午後、この日の北大の全学企画公開講座「去る時代、来たる時代を考える」は時間も、会場もいつもと違い、北大学術交流会館で二つの講座が実施された。レポとしてはやはり二つに分けてレポする方が良いと判断し、まずは1講目をレポすることにする。
1講目は「中国の改革・開放40年と習近平体制の行方」と題して、メディア・コミュニケーション研究院教授の藤野彰氏の講義だった。藤野氏は読売新聞の中国特派員や中国総局長などを歴任された後、北大に着任された中国通である。
藤野氏はまず、現代中国の歴代指導者についてざーっと振り返った。藤野氏がまとめたものを紹介すると、
◇第1世代 毛沢東(1949~1976年)……27年間
◇過渡期 華国鋒(1976~1981年)…… 5年間
◇第2世代 鄧小平(1981~1997年)……16年間
◇第3世代 江沢民(1989~2002年)……13年間
◇第4世代 胡錦涛(2002~2012年)……10年間
◇第5世代 習近平(2012~20●●年?)
その現代中国のこれまでを俯瞰すると、政治優先の毛沢東時代から、「先富論」を唱えて改革・開放政策に舵を切った鄧小平によって中国は大きく変貌を遂げ、現在に至っていると振り返った。
そして藤野氏はその功罪を次のようにまとめた。
◆改革・開放の「功」
①総合国力の大幅な増強
②国際的地位の大幅な向上
③国民生活の全般的なレベル向上
④対外交流の拡大と価値観の多様化
⑤社会の開放性が増大
◆改革・開放の「罪」
①貧富格差の拡大
②事実上の「階級社会」復活
③共産党員・幹部の腐敗
④環境破壊の進行
⑤治安情勢の悪化
⑥大国意識の増長と対外摩擦の増加
⑦政治改革の停滞
藤野氏のまとめでは「罪」の方が「功」の項目より数が多くなってはいるが、中国国民の大多数は「功」の部分を感じているのではないかと思われるのだが、どうなのだろう?
日本をはじめ周辺アジア諸国やその他の国々にとってはその動向が気になる存在ではあるが…。
さて、現在の中国のリーダーである習近平の登場後、豊かになった経済力を背景に強力なリーダーシップを発揮しながら、覇権的な意欲を隠そうともしない姿勢を露わにし始め、周囲に不安を与えている。その不安とは? 藤野氏は次の8点を挙げた。
①軍事膨張、対外拡張主義に対する国際社会の反発、警戒感。
②「信頼される大国」への遠い道のり。
③中国式高度成長路線の終焉。
④一党独裁に対する民主化・人権圧力の高まり。
⑤環境汚染・水資源不足による生存空間破壊。
⑥増大する貧富格差・不公平感と社会治安悪化。
⑦摩擦が激化する少数民族問題……チベット、新疆ウィグル。
⑧次のステージへの道筋の見えない不透明感。
中国の台頭は私たちにさまざまな不安を与えるが、最後に藤野氏はそのような隣国中国といかに向き合うべきか、という点について次のようにまとめられた。
もはやGDPの日中逆転はあり得ない状況の中で、隣国中国を過大にも過小にも評価せず、その強さと弱さを冷静に把握し、長期的展望に立った対中戦略を構築すべきではないかとした。
そして、日本の強みである科学技術、教育、文化、環境、医療、防災安全、社会秩序などの分野で世界トップレベルの優位性を確立することが大切であると説いた。
藤野氏の説得力ある説に概ね頷いた私だった。
※ いつの場合でもそうであるが、講義記録のレポはあくまで私が講師から伺ったことを私なりに受け止め、講師の発言の一部を切り取ったものであることをお断りしておきます。講師の意図が私の受け取りとは別な場合も多々あると考えられるからである。