北大の総長が公開講座に登場するのは初めてだという。そうした貴重な機会を得た私たちは、名和総長の時にユーモアも交えながら、世界的な情勢を語り、北海道大学が果たすべき役割について語る名和総長の話に聞き入った。
7月12日(木)夜、北大の全学企画公開講座「去る時代、来たる時代を考える」の第4回の公開講座があった。
この回は、「世界的課題解決に貢献する国立大学の使命~北海道大学の挑戦~」と題して、北海道大学総長の名和豊春氏が講義された。
名和氏はまず、世界が当面している諸課題についてさまざまな統計などを用いて説明された。環境・気候変動問題、食料・鉱物・エネルギー資源の枯渇、感染症の蔓延、等々…。
その中でも特に、世界の人口が爆発的に増え続け、今や地球の人口が80億人時代を迎え、食糧危機が目前に迫っていることに強い警鐘を鳴らした。
さて、そうした世界的課題を前にして、北海道大学リーダー(総長)として名和氏は北海道大学をどこに導こうとしているのか?名和氏は語った。
名和氏は北大を二つのポリシーを掲げて北大を導いていこうと考えている、と語った。
その二つとは、〈1〉「世界トップ100を目ざす研究・教育拠点の構築」と〈2〉「北海道の地域創生の先導」の二つだという。
北大は札幌農学校として発足以来、①全人教育、②フロンティア精神、③国際性の涵養、④実学の重視、を伝統としてきたが、その精神を継承しながら新たな時代の課題に果敢に挑戦したいと語った。
そのための環境づくりとして、国際社会で活躍する同窓生によるキャリア教育や海外留学の経験、さらには多様な人種・文化・宗教・国籍を持つ留学生とともに学ぶ場を設けることによって、大学内に「国際社会の縮図」ともいえる環境を作り、課題解決型の学習を推進したいと語った。
そしてポリシーの〈1〉の実現を目指すために、北大の研究者の研究で世界水準にある研究については国内外に積極的に情報発信するとともに、AIやビッグデータなどのデータサイエンスの活用し、工学や生命科学、医学、農学、人文社会学が融合的にかかわるネットワーク科学の推進に努めたい、とした。
一方、〈2〉の「北海道の地域創生の先導」については、北大には札幌農学校開校以来、農学の知が集積されているが、これらを工学・保健科学・経済学などの分野と融合させた技術体系を確立し、北海道の地域創生を目ざしたいとした。具体的には各種機関・官庁とも連携し「日本版フードバレー」を整備し、スマート農業を展開することだという。
名和氏はご自身の専門が工学だからだろうか?工学と農学が融合することによって、センサーで生育情報を収集し、ビッグデータ解析によって最適な栽培管理を行うスマート農業の実現にことのほか熱心なように聞こえてきた。さらには、AIを活用した画像分析による病虫害の早期発見や、ロボット化と自動化による農業の省力化、農薬の使用の減少、などにより生産性の飛躍的な向上が可能になるとした。
農業の生産性の向上だけではなく、経済学との融合も図ることにより、生産現場と加工・流通分野との連携も強化することで、北海道をより魅力的な地域へと発展していくことを先導したい、と語った。
名和氏は最後に、世界的課題の解決に向けて、教職員が一体となって挑戦し、「独立心と自立心を持つ豊かな北海道大学」を創っていきたいと結んだ。
総長自らが、私たち一般市民に対して、大学の理念や夢を直接語りかけてくれたことはとても意義深いひと時であった。そうした総長の積極果敢な姿勢を一市民として心から応援したいと思った。
と思いながら帰宅したところ、その日の北海道新聞夕刊の一面に「スマート農業」と題するコラム記事が載っていた。ここに引用しておくことにしたい。
「グォーン」。広大な大豆畑にエンジン音を響かせ、衛星利用測位システム(GPS)搭載のトラクターが進む。ハンドルを握る人がいなくても、誤差は数㌢。SF映画のようだ。
三浦農場(十勝管内音更町)の三浦尚史社長(47)は6年前から、後続の有人機が無人トラクターを監視・制御する2台連携システムを北大と共同開発してきた。99㌶もの畑を、わずか5人で耕す。
トラクターを直進させ、種まきする技術の習得に、昔は4~5年かかった。三浦さんは「素人でも作業可能になり、経営面で効率が飛躍的に上がった」と言う。
ドローン撮影の画像を利用したきめ細かな農薬散布、センサーによる温度管理…。情報通信とロボット技術を組み合わせた「スマート農業」が、一気に花開こうとしている。背景には深刻な担い手不足と、働き方改革がある。
一次産業の国勢調査にあたる農林業センサスによると、2015年の全国農業就業人口は209万7千人と、5年間で50万人も減った。平均年齢は0.6歳上がって66.4歳。労働時間短縮や作業量軽減など、農業を魅力的な仕事にすることが急務だ。
農水省は5年前にスマート農業の研究会を設置。国内農機具メーカーは秋以降、相次ぎロボットトラクターの発売を予定している。
12日に帯広市郊外で開幕した4年に1度の国際農業機械展(ホクレンなど主催、16日まで)では、国内外134社が新製品を披露する。近未来農業の姿をぜひ見に行きたい。
記事は農業就業者の高齢化、就業者不足に焦点を当てているが、名和氏の論はもっと遠大でスマート農業が世界の食料不足の解決策の一つであることを視野に置いている。その点にやや違いはあるものの、スマート農業の現在地点を示す記事なのではと思い紹介した。