数日前から小説を書こうと思い立ち、原稿用紙に書きつけるではなし、直接パソコンを叩き始めようかと考えた。
ある若侍が歩いていると、右手の坂を赤い布を首に巻いた飼い猫が下ってくる様子をトップシーンにした。
桜が咲いているとか、菜の花や水仙が咲いているとか書こうと思うが、さてこれらの花はどんな順番で咲いていくのだろうと疑問に思ったら、これは途方もなく難儀な作業であることだと感じ始めた。
そして、主人公が歩く道筋や取り込む景色を理解するために周辺の簡単な地図を書いてみる。
遠くに見える小さな天守を持つお城の方角や、そこへ至る道筋、街の中に入り込むが街道の有様や侍の町、商人の町などをああでもないこうでもないと、書き始めるとタイピングどころの話ではなくなった。
ふと、藤沢周平の「海坂藩」の小説の「散策地図」を持っていたことを思い出し、まだダンボール詰めを免れている本棚をあせって何とか発見した。
いわゆる鶴岡の城下町が「海坂藩」な訳で、沢山の小説の舞台の場所が地図にプロットされている。
私が書こうとしている町は全くの仮想の世界だから、熊本の城下町をベースには出来ない。
海にも近いご城下で、何となく宇土の城下町が浮かんだりしてくるが、これとも違う。
前作の「桜守」のイメージも地図の中に入れなければならない。
ベッドに入るとこんなことばかりが頭をよぎり、眠りに就けない。なんとか地図が出来るころには、粗方の筋書きは出来上がればそれからようやくタイピング開始という感じである。
来月11日は引っ越しもせねばならぬ。さていつ出来上がるかはとてもお約束できるような話ではない。