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桜と絵本と豆乳と

本当の姿が見えるかどうか

2009年09月08日 | 読書
 『本当に生きた日』(城山三郎著 新潮文庫)

 題名、著者を考えると、いかにも硬骨漢が幾多の難関、障害を乗り越えるような小説が想像できるが、なんとこの物語の主人公は女性であった。

 しかも、三十代専業主婦。ごく平凡な何か特別な取り柄があったとも言い難い主人公が、いわゆるやり手の友人に強引に誘われ「家庭人材研究所」なるところへ勤めて、様々な出来事に翻弄されていくという筋である。

 この小説は昭和61年に地方紙に連載されたものだという。前年に男女雇用機会均等法が改正されたことを考えれば、まさしく時流を描いたと言ってもいいのだろう。

 女性が社会進出するための(この言葉自体が古い感覚と思うが)、ノウハウは「MNN」だという件が出てくる。M…メンター、N…ネットワーク、N…ニュースバリューということらしいが、これは二十数年経過した今も、男女による違いもあまり変わらないことではないか。

 女性絡みだったからか、ビジネス界からは少し離れるが唐突に今年の某テレビ局の24時間テレビのマラソンのことを思い出した。
 あの企画自体どうかと思うしマンネリも避けられないはずだが、それをなんとか盛り上げたいという意図は強く感じる。
 今年のランナー選択には同放送局番組から持ってきていて、ある意味MNN全ての要素が揃っているんだなと思った。ただその後がどうなるのかこれも予測がつくような気がするし、昨年の芸人にしても似たようなものではないか。

 こう考えていくと、どうもこの国では目立ったポジションについた女性が順調にいっている例が少ない。そこまでの経緯で周囲に仕立てられたという要素が強いためではないだろうか。今話題の政界はまさしくしかりであろう。

 「背伸びをするのよ。背伸びを続けていると、ほんとうに背が伸びるそうよ」
 
 主人公の友人が放つこうしたポジィティブな言葉は、能動的に生きようとするためには励ましにはなるが、妙に白々しく聞こえた部分が多かった。
 それはきっと内省が足りないという印象を持ったからだろう。著者もまたそう感じさせる描き方をしているように感じた。

 結局は事故死してしまうもう一人の主要な人物が、主人公のよさについて語った一言がより印象的だ。

 「いい聞き手には、人生はゆっくりと本当の姿を見せてくれるわ」