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ドックで読書,最後

2012年11月01日 | 読書
 『名短編ほりだしもの』(北村薫・宮部みゆき編 ちくま文庫)

 宮沢章夫のエッセイ風の文章から始まり、芥川龍之介、志賀直哉の小説まで収められている。
 第一部の宮沢章夫、片岡義男までは読みやすかったが、それ以降は様々な文体があり、没頭して読める作品ばかりではなかった。
 時代的な感覚の差もあり、小説好きとはいえない自分にはあまり適さなかったかなあと感じながら後半部に差し掛かったあたりで、今まで見聞きしなかった作家の作品と巡りあった。

 伊藤人譽

 ちょっと調べたら、「幻の芥川賞作家」(候補作となったが、手続き上のミスで審査されなかった)というような形容もあり、その筋に詳しい人には有名なのかもしれない。

 収められている作品は二編。
 「穴の底」
 「落ちてくる!」


 登山中に深い穴に落ちた男がなんとか這い上がろうとする話

 病院のベッドで天井の電燈が落ちてくると訴える老婆の話

 と無理やり筋を書いてみれば、どうということはないが、実は引き込まれるように怖ろしい。

 解説の宮部みゆきが、後付にも書いてある「過呼吸になりそうなほど怖かった!」と口にしたのは「穴の底」だったのだ。

 読んでいるうちに、自分の想像力を膨らませようとすれば、怖ろしさが拡がるようで、あえて淡々と読んでみた。

 「落ちてくる!」は、読み終わってからまたその光景を思い出そうとすると、天井にある様々なものに何かがついているような雰囲気になり、心が暗くなるようだった。

 自分が青年期にこのような作品と巡りあわなくてよかったな、とそんな気持ちが湧いた。
 と、思い出したのは安部公房…学生の頃、続けて読んでいた記憶がある。設定などは違うと思うが、雰囲気が近いのではないか。

 いやあ、そこに足を捕まれなくてよかった。
 何はともあれ,無事にドック読書から帰還できたことをほっとしている。