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桜と絵本と豆乳と

アスタリスクが拾うもの

2018年05月15日 | 読書
 自分ばかりではないと思うが、キーボード上の「」の正式名を知らなかった。なんとなく「星」と呼んでいた気はする。調べてみたら「アスタリスク(アステリスク)」。結局「星印」という意味らしいが、統一はされていない。表計算では「×」の代わりに使われる。この書名にある*印は、そういうことなのかな。

2018読了51
 『小さな男*静かな声』(吉田篤弘  マガジンハウス)


 小さな男静かな声(を持つ女性)の毎日が、人称を織り交ぜた形で交互に書かれている。男はデパートの寝具売り場に勤め「ロンリー・ハーツ読書倶楽部」に通う。女はラジオ番組のパーソナリティで、その職を周囲に気づかれないように暮らしている。「小さな」と「静かな」という自身の特性に固執している二人だ。


 結局、最後まで二人は直接関わりはしないが、ある知り合いを介して、お互いを知らないままに深いところでつながり合う。いわば、その過程を描いた物語だ。人はどんなに消極的な性格だったとしても、何かしら表現をしたいものだし、心がそう捉える材との出会いを求め、きっかけを常に探しているのではないか。


 小さな男が反応したのは「自転車の遠乗り」だった。深夜の放送で「静かな声」が語るその響きに反応し、今までとは違う変化をみせる。静かな声を支えたのは「真っ赤な手帳」だ。派手さを好まない彼女があえてそれを選び、放送で語る「材」を書き込む。自分が語った自転車の話が廻り回って、彼女に戻ってきた。


 洒脱な文章が全編に散りばめられていて、楽しい小説だった。事象や言葉に対しての視線が独特で、はっとさせられる。静かな声の女性が、数少ない友人と手帳についてあれこと語り合った時、メモが役立っていると感じながらこんなふうに独白させたことに、作家の価値観や現状認識があり、また一つ揺さぶられた。

 「結局、いちばん残しておきたいものはいつでもこうしてこぼれ落ちてゆく。人の記憶なんてそんなものだ。赤い手帳を買って、それがよく分かった。代わりに、どうでもいいことばかりが克明に記録されてゆく。