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桜と絵本と豆乳と

過去を整理しながら生きる

2019年12月30日 | 読書
 著者の「」という名前の漢字は初めて見た。1927年生まれとあるので93歳か。経歴を読むと図書館学の権威のようだ。夏頃にこの新書を新刊コーナーで見つけ借りたのだが、なかなか職場では読めず延長を繰り返し、ようやくの歳末読了となった。自分の今年を象徴する意味では、いい締め括りなのかもしれない。


2019読了108
『生きるための図書館』(竹内 悊  岩波新書)



 「はじめに」を読んだだけで、著者の矜持が見えるような気がした。例えば「利用者」という言葉を使わず「読者」を選んでいることにも表れる。「『利用者』には図書館で利用登録をした人だけという感じですが、『読者』には自分で何かを求めるという積極性がみえるからです。」ここに、人に対する根本的な信頼がある。


 どんな仕事においても、対する相手をどうみるか(それは呼び名に表れる場合もある)によって、姿勢が違ってくる。そこに来る人がどんな気持ちを抱き、何を求めてやってくるかを察知し真摯に向き合おうとしていれば、おのずと言動が選ばれる。それがこの著書では「生きるための」という題名にも感じられる。


 ある地域の図書館の紹介から始まり、戦後日本の読書運動や図書館の歴史が、やさしく語られている。今年複数の研修を受けたが、結局図書館とは何のためにあるか、改めて教えられた気がした。文中に引用されている字句として「過去の整理」と言えるかもしれない。そして「それ自身が生活の進行」なのである。


 実務からアイデアまで実に豊かな内容だった。長い大学教鞭経験から書かれた「板書」の一節が妙に印象深い。「板書をするという時間を持つことで、一方的に言葉が流れるのではなく、教師と学生が字を書くという共通の仕事をする」…そこに生まれる何かを求めてきたし、今また近い思いを持っていることに気づく。