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桜と絵本と豆乳と

1/2ぐらいは読めたとして

2021年02月04日 | 読書
 一昨年に読んだ『月の満ち欠け』は、久しぶりに小説の読みごたえを感じた一冊だった。著者の作品を続けて…と思わぬでもなかったが、なんとなく失念した。先日、古い雑誌で佐藤正午特集が組まれていたのを目にし、では読んでみるかと3冊注文したが…傑作と言われる『鳩の撃退法』は上巻で挫折し、これに移った。


『永遠の1/2』(佐藤正午  小学館文庫)


 正直、これもどうにか読みきったという感じだ。以前、初めて著作を読んだ時に感じた「冗長さ」と付き合えるかどうか、今回もぎりぎりだった。多くの作家、批評家から称賛される「小説の名手」の話についていけない訳は自分の読み方にあるかもしれない。ただ、唯一同齢である時代感覚がつなぎ留めてくれたか



 デビュー作である。1983年に28歳になった主人公は著者と等身大の姿であろう。「自分と瓜二つの男がこの街にいる」ことによる、様々な出来事そして事件が話の筋を作りながら、独特ともいうべき問わず語りが展開される。友人、異性、家族関係、そして趣味の競輪、野球等々、時代が背負っている景色が鮮明だった。


 細かい点だが妙に懐かしく思えたのは、この当時スーパーなどの買い物では、いわゆるレジ袋ではなく四角い紙袋だったこと。ほんの些細な描写が心を揺らし、当時の風景が蘇ってくる感覚に浸った。買い物帰りの手はそれぞれ家のカゴから紙袋へ、そしてレジ袋、さらに今はエコバックへ。そんな姿が物語に思えた。


 この文庫版には著者自身による「あとがき」がある。著者は他の小説はいつでも「ほれぼれ」して読み返すが、このデビュー作品だけは例外らしい。文庫新版のため読み返し、「文章力」だけが見所だと書く。それを「粘り」や「根気」とも言い換えている。要は「タフさ」だ。私にはそのタフさがしんどく思えたのか。