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好きなことを続けるために

2022年03月22日 | 読書
 書名から予想できる「60歳になったのだからこれをやりなさい」「70歳になったらこれがお勧めです」といった類の話は一つもない。つまり「年齢の縛りから自由になる」ことが基底にある。著者自身が古希でAPU学長となり、また歴史関連等の著書で脚光を浴びる存在だ。そのエネルギーの源を縦横に語っている。


『還暦からの底力』(出口治明 講談社現代新書)


 この本は読み取り方を間違えてはいけない。著者は「人生で大切なのは好きなことをする時間」「一皮むいたら人間は同じでアホな人ばかりで(略)それが人間の本性」「大事なことは時間にして2割強の仕事より、8割近くの時間を過ごす仕事以外の部分です」と言い切る。強く肯くけれど、具体化の肝は次にある。


 「この見極めがつくと、思い切って仕事ができるようになります」人生をしっかり見つめ、人間関係に煩わされたり空気を読んだりすることの無意味さを語る。力の向け方を根本から問うているのだ。ただ日本の組織にある「正直さの軽視」や「決断力ばかり持て囃される」傾向は、現実として大きく立ちふさがる。



 「つまらない」仕事に対してどう向きあうか。まずは思考停止に陥らないことだ。根強い長時間労働、製造業の工場モデルへの固執、前例踏襲、横並び主義、男女格差等々。自分も徹底できず悔やんだ点は少なくない。とはいえ、案外充実していたと今感じるのは、結構我儘に楽天的に好きなことを続けてきたからか。


 繰り返し登場する「『飯・風呂・寝る』から『人・本・旅』へ」というキーフレーズ。それは、高度成長期から成熟・停滞期(いや低迷期か)、また低学歴社会から高学歴社会という流れの中で、頭ではわかっていても実行できていない者が多い証左だ。誰かに飼い馴らされていては「人・本・旅」の本質も見えない。