すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

参冊参校参稽(五)

2023年02月09日 | 読書
 2月の新着本を3冊借りて読む。いずれもお気に入りの作家たち。それなりにふむふむと読んだが、いずれも今一つという感じだったなあ。


『日々憶測』(ヨシタケシンスケ  光村図書)

 ヨシタケの絵本は読み始めた時から、密かに「妄想大王」だなと思っていたが、本人は「憶測」のつもりだったか。妄想だと「あり得ない」や「淫ら」が強く、憶測だと「根拠なし」「勝手」の方が主なのかな。いずれにしても重要なのは「観察」と「連想」だ。格好つけていうと「複眼的視点」だろう。ヨシタケの描く世界は微少から広大を行き来しているイメージがあり、読者に反感を抱かせない。巷に流行る「それってあなたの感想ですよね」と突き放したりしない。いいじゃないのと笑ってページをめくられる。



『べつに怒っていない』(武田砂鉄  筑摩書房)

 お気に入りのライターの一人。著書も買っているし、ネット配信された文章も読んでいた。この本は『日経MJ』の連載らしいが、初めて目にした。内容が身辺雑記なので、武田にしては正直歯応えがない。著者らしさは表題「べつに怒っていない」に素直に出る。時の政権やマスコミに対する「怒りや違和感を表明する仕事」が本領だからか、他者からいつも怒っているように見られることへの不満や苦しみを訥々と語っている。ヨシタケと共通する「観察力」の鋭さ、そして憶測、妄想ではなく、着想・分析は感心する。それゆえ日常生活の描き方は弱く思えた。





『君のいた時間』(伊集院静  講談社)

 「大人の流儀special」として、ファンなら誰しも知っている愛犬との出会い、暮らし、別れを綴っている。週刊誌連載に何度か書かれた文章も入っているので、かすかに記憶している内容もあった。ペットを飼う習慣はない(これからもないと思う)ので、その気持ちを想像するのは難しいが、いずれにしても飼う者は自分の姿を映しているのではないか。言語という伝達手段がないために、相互接触と仕草や表情を読み取り表現していく…乳児と一緒にできないかもしれないが、ある意味「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」という至言を思い出す。しかしまた、凡人には言葉がなければ伝わらない思いが表現されている。

2時間遅れのスノームーンへ

2023年02月07日 | 雑記帳
 いつものように5時過ぎに目が覚めて、読みかけの本に手を伸ばし残った数ページを読み終えた。ああ今朝も雪は積もっていない感じだな…とベッドを脱け出し朝刊を取りに行く。念のためと思い玄関戸を開けて、ふっと空に目をやると、向かいの家の屋根の上に、霞みつつボーっとオレンジ色に光るものが見えた。


 「月か…」。この時間帯にこんな色味を見るのは珍しいと、寝間着のままダウンジャケットを羽織り、長靴を履いて出てみた。道は凍っていて、かなり気を付けないと転倒しそうだ。隣家の横の小道を少し進み、電線が邪魔にならない位置まで行く。コンパクトカメラでパチリと収めた。家々にはもう灯りが点り始めた。



 寒かったあと言いつつ家へ戻り、パソコンをつけFBを開いてみると、「スノームーン」という文字が飛び込んでくる。そうかあ、満月だった。〇〇ムーンという言い方は最近ずいぶん目にするようになった。検索したら全ての月の名称があるのだった。冬場の月を見る習慣などとても考えられなかったが、余裕がある。


 今年の積雪が少なくて安心感があることも一つの理由か。町で毎日公表している「積雪量」のデータによると、山間部はあまり変わらないが、住んでいる平坦部はやはり半分だ。なにしろ、まだ一度もカーポートの雪下ろしをしていない冬など記憶がない。約20年経つが初めてだ。このまま続いてほしいなあと願う。


 データを見ていくと昨冬の最高値はちょうど2月7日であり、その点を考えると見通しは明るい。ただ自然は自然であり、我々のちっぽけな願いなどとは無縁だろう。約38万㎞離れている「今年最も遠い満月」をちょっと瞼に思い浮かべながら、スノームーン様、あとスノーはいらないですからどうか…と呼びかけたい気分。


そのハコもそのマメも

2023年02月06日 | 雑記帳
 いくつになっても知らないことは多い。一応、言語に携わる仕事をしていても、首を傾げることが少なくない。先日もある漢字がよめず…。一月で終了した図書御籤を最後に引いてみたら、下欄に書かれているお薦めブックの書名にある「」という文字。館員に訊いたら、あっさりと答えたので益々えっと思った。



 今年も届けていただいて無事に味わえる幸せを嚙みしめる。立春大吉


 「はこ」だそうである。言われれば部首は「はこがまえ」。その書名は「魔眼の匣の殺人」であった。普通は「箱」だし「函」は知っている。匣には何か特別な意味があるのかと調べたら、「ふたがついてぴったりかぶさるはこ」とあった。なるほどイメージがわく。「甲」は「よろい」だし、硬質な姿が見えてくる。


 定番ながら節分には「豆」の話題を…と思い、豆という字と「まめ」(健康)という意味をかけるつもりでちょっと調べたら…。「まめ」には「忠実」という漢字が当てられることを初めて知った。「真面目、几帳面」という意味に対して、その字を当てるのか。これはやはり封建時代の名残なのか、と少し考え込んだ。


 「あの者はマメじゃのう」と上位者が語る時、それは言われた通りに様々な仕事をこなす、努力を惜しまず尽くす、(そのためには健康であるのが一番の条件!!)といった思考から生まれた語ではないのか。派生した「まめまめしい」という語も決して悪い意味では語られはしないが、字を知るとどこか卑屈に響く。


 「匣」にしても「まめ」にしても、把握も使用も多様で何一つ共感を呼ばないだろう。こんな些事に関心をもって?グタグタ書いたことをネット空間にある小さな匣に入れているオマエはまめだなあと揶揄されるかもしれない。しかしその場合の忠実は自分のための忠実であれば、よいではないか。と、かように思う。

参冊参校参稽(四)

2023年02月03日 | 読書
 大寒に読んだ本。真面目に向き合えば、いずれも何かしらの形で突き刺さってくる。


『神々の食』(池澤夏樹・文 垂見健悟・写真 文春文庫)

 著者は約10年沖縄に住んだ。この文章は、島の空を飛ぶ航空機の機内誌に連載された内容という。正月の沖縄へ旅行したのは20年以上前。食に関しては、海ブドウや豆腐よう、泡盛古酒などそれなりの記憶が残っていて、「食」について少し書き散らしてみたい欲望が湧きあがったりするが、池澤のような深みは表現できない。「人間にとって食べ物は分かつものである」…とそんなふうに著せるのは、向き合い方の「真剣さ」によるものだろう。食物を取り上げることは、結局人間を描くことにほかならない。




『老いる意味』(森村誠一  中公新書ラクレ)

 若い頃新幹線車内でその細身の姿を見かけたことがあった。著作を読んでいたわけではないが顔は覚えていた。CMに出ていたからか。米寿を過ぎても「いまはまだ旅の途中に過ぎない」と書く著者が、80代になって「老人性うつ病」を発症しその顛末を記すことから、「老い」とどう闘い、どう寄り添うかを、体験をもとに訥々と語っている。読者全員が納得する意味や処方箋ではないかもしれない。しかし、何より自分の気持ちに正直で、そしてあきらめない姿は晴れ晴れとしている。副題「うつ、勇気、夢」はその道程であったか。


『おんなのことば』(茨木のり子  童話屋)

 名詩「自分の感受性くらい」も「倚りかからず」も、面と向かって言われたら情けないが泣いてしまうかもしれない…そんな想像をしてしまう。強い詩人だ。「戦後詩の長女」とはまさに言い得ている。このアンソロジーでは「問い」と題された作品を一つ引いてみよう。「ゆっくりと考えてみなければ/いったい何をしているのだろう わたくしは」と始まる詩は、深く内省する姿をこう括る。「青春の問いは昔日のまま/更に研ぎ出されて 青く光る」…精神を磨き続けなければ、こんな詩句は出て来ようもない。


卯年正月回顧

2023年02月01日 | 雑記帳
 年明け前から天候に恵まれ、雪があまり積もらないのでずいぶんとラクさせてもらった。四日の仕事始めからの図書館正月企画は、例年にも増して順調で中旬過ぎだったがTVニュースの話題にも取り上げてもらった。図書御籤の「大吉」景品に惹かれて我が孫はこども園の帰りに何度も立ち寄り、くじを引いていた。


 イベントは毎週土曜にあった。特に中心となって進めた「子育て・教育講演会」は定員超になるほどだった。縁のある方が多く、この縁をつなぎながら微力でも幼少教育に関わっていきたいと思う。講師の照井先生が挙げた資料も充実していたし、自分も準備のために本館蔵書を読み込むことも出来て、有意義だった。


 読み聞かせはこども園が4回、学校が2回。子ども園は学級閉鎖もあったなか、予定通り実施できた。小学校2年生相手に選んだ『まっくろいたちのレストラン』(島本理生・作)は、「恋の絵本」シリーズとして発刊された一冊。まだ早いかなと思ったが、「メッチャ、いい話じゃん」と言ってくれた子がいて嬉しかった。



 10年ぶりの寒波と言われた下旬、降雪は少しでも強い風で、自宅TVアンテナが破損した。夜間から屋根でゴトゴトしていたのに気づいたのは午後になってから、何とか頼み込み仮押さえしてもらった。しかし、町内某イベントの主役なので忙しいらしく、その後捗らずBSは視聴できないままだ。まあ慶事につき許す。


 一月末日。業務の簡便化を図るつもりだったが、館員と相談したら別方法も提示され、そうする。大事なのは現場主義だ。御御籤が残り数枚となり、自分も引いてみる。なんと大吉!!(仕込みか!)。いい気分で孫への御土産をもらう。「開運ブック」にある「」の字が読めず、追究した。向学心(笑)衰えず、感謝したい。