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大変な時代に覚悟を持つ

2023年02月17日 | 読書
 「いま現在がそうであるように、大変な時代というのはしばしば予告もなしに、われわれに襲いかかってくるものです。それは容赦もなく、あっという間に、あるいはじわじわと、呑気に暮らしていたわれわれを、非常に困難な状況へと突き落とします。」城山三郎は1980年代の講演で冒頭こんなふうに切り出している。

『よみがえる力は、どこに』(城山三郎  新潮文庫)

 今思えば、呑気にみえた昭和終期であってもそうした認識が主流だったわけで「大変な時代」の基準などないと考えさせられる。「最後の戦中派」世代と呼べる城山が語るからこそ重みがあり、続けられた一言「でも、そんなことは珍しいことではありません」は、「覚悟を持つ」重要さに置き換わると言ってよいだろう。



 この文庫は表題となった講演記録、そして亡き妻に捧げた著『そうか、もう君はいないのか』の補遺、さらに「同い齢の戦友と語る」と題し作家吉村昭との対談で構成されている。城山の様々な面が垣間見ることができて興味深く読んだ。経済小説を切り開いた作家ではあるが、語った核は自分の矜持であったと思う。


 戦争末期に志願入隊した経験をもとに、敗戦後の国や人々の変貌を冷静な目で見ているし、何より個々の内実に深く迫るエネルギーが真骨頂と感じる。好き嫌いが明確で時流に流されない姿勢も合わせて、ビシッと芯が立っているイメージを持つのは私だけではない。それゆえ対談でのざっくばらんさも印象深い。


 吉村との対談で共感するのは、時代が変わってもぶれない人間の強靭さだ。対談で挙がった作家たちのエビソードからの学びも大きい。「大変な時代」に心が揺らいでも、「守るべきは何か」を繰り返し意識する、そして具体的な言動で示す。それが、他からのどんな評価も受け止める「覚悟」を持つ生き方と教えられる。