すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

参冊参校参稽(七)

2023年02月16日 | 読書
 新刊やら昔の本やら、いろいろ読む如月となっています。


『審議官 隠蔽捜査9.5』(今野 敏  新潮社)

 単行本一気読み。年に二、三冊あるだろうか。やはりこのシリーズだからだろうか。ここ3,4年の文芸誌に掲載したスピンオフ作品+一本という構成だった。大森署の残った者たちが竜崎にアドバイスを求める展開が複数あり、結局そうかと思うのも仕方ない。今回際立ったように思う言い方は「放っておけ」だろうか。結局、つまらぬことに神経を砕いている人物(それは読者も似ている)がいかに優先順位を組み立てられないものかを痛感する。そして、自らの経験則を信じることも大切だ。最後の書下ろし「信号」で語る竜崎の「屁理屈」はさすがだ。




『荒地の家族』(佐藤厚志  新潮社)

 めったに読まない芥川賞受賞作品。いつ以来かというと『おらおらでひとりえぐも』だから5年ぶり。なかなか読みきれない、しっくり来ないだろうと思ってはいたが予想通りだ。正直、落ち込みそうになる。「亘理」という地名に、遠いけれど沁みついている思い出があり、手に取ってみた。震災が揺さぶり奪い去ったことの本質が問われる。描かれているのは文字通りの荒地の風景であり、当然人生に重ねられている。それは天災によってもたらされたというより、土地や時代の宿命も底にある。「荒浜」という地名と響き合うようにつけられた書名の果てしなさを想う。



『ふかいことをおもしろく』(井上ひさし PHP研究所)

 かつてNHKで放送していた100年インタビューという番組の話がまとめられた一冊。井上の本にあまり馴染みはないが、かつて山形の遅筆堂文庫を訪れた経験もあるので一応のことは知っている。幅広い活躍の芯は何にあるのか。たどり着いた考えは「笑いとは何か」に表れているように思った。次の言葉は深い。「どういう生き方をしようが、恐ろしさや悲しさ、わびしさや寂しさというのは必ずやってきます。でも、笑いは人の内側にないものなので、人が外と関わって作らないと生まれないものなのです」…創作の意味をより深く考えてこの境地に達した気がする。笑いの生まれる関わりを持ちたい。