今回は、令和3年-労基法問3-ウ「賃金の全額払(判例)」です。
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使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することに、
労働者がその自由な意思に基づき同意した場合においては、「右同意が労働者の
自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的
に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定〔労働基準法第24条第1項
のいわゆる賃金全額払の原則〕に違反するものとはいえないものと解するのが
相当である」が、「右同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断
は、厳格かつ慎重に行われなければならない」とするのが、最高裁判所の判例で
ある。
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「賃金の全額払(判例)」に関する問題です。
次の問題をみてください。
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【 H18-2-B 】
最高裁判所の判例によると、労働基準法第24条第1項本文の定めるいわゆる賃金
全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止
し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすこと
のないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が
労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する
趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき当該相殺に同意
した場合においては、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものである
と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、当該同意を得てした
相殺は当該規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である、とされ
ている。
【 H25-7-エ 】
いわゆる全額払の原則の趣旨は、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、
もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことの
ないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるとするのが、最高
裁判所の判例である。
【 H26-3-オ 】
労働基準法第24条第1項に定めるいわゆる「賃金全額払の原則」は、労働者の
賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺
することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当であるが、その
債権が当該労働者の故意又は過失による不法行為を原因としたものである場合に
はこの限りではない、とするのが最高裁判所の判例である。
【 H30-6-B 】
使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺は、当該同意
が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な
理由が客観的に存在するときは」、労働基準法第24条第1項のいわゆる賃金全額
払の原則に違反するものとはいえないとするのが、最高裁判所の判例である。
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いずれも「賃金全額払」に関する最高裁判所の判例からの出題です。
【 H18-2-B 】、【 H25-7-エ 】、【 H26-3-オ 】の3問の判例では、
使用者が一方的に賃金を控除することは禁止されており、労働者に対して有する
債権と労働者の賃金債権とを使用者側が一方的に相殺することは認めないとい
うことをいっています。
ただ、相殺について例外もあり、【 H18-2-B 】にあるように、「労働者がその
自由な意思に基づき当該相殺に同意した場合」、つまり、労働者自身が納得した上
での相殺であれば、禁止することはないだろうということで、相殺が可能となり
ます。
ですので、
【 H18-2-B 】と【 H25-7-エ 】、【 H30-6-B 】は、正しいです。
【 R3-3-ウ 】では、前記の論点に加えて「右同意が労働者の自由な意思に
基づくものであるとの認定判断」についての記載もありますが、そのとおり、
「厳格かつ慎重に行われなければならない」とされています。
したがって、【 R3-3-ウ 】も正しいです。
一方、【 H26-3-オ 】では、「この限りではない」と相殺が許される記述
がありますが、【 H18-2-B 】の場合とはまったく異なる場合で、この
場合は、相殺は認められません。
最高裁判所の判例では、
「労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権
をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当
である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変りは
ない」
としています。
つまり、
労働者の不法行為を理由とする損害賠償債権との相殺の場合であっても、使用者
による一方的な相殺は賃金全額払の原則に違反することになります。
とういうことで、【 H26-3-オ 】は誤りです。
賃金との相殺に関しては、ここに掲げた問題の判例とは異なる判例からの出題も
あり、かなり頻繁に出題されているので、しっかりと確認をしておきましょう。