百醜千拙草

何とかやっています

不正への対応

2018-04-20 | Weblog
リバイスで言われた簡単な実験で思うような結果が出ない時ほど、ストレスを感じることはありませんね。レビューの結果を見た時は、これは比較的簡単にアドレスできる批判だと思ったのに、その簡単な実験のいくつがうまくいかず、このひと月余り、同じ実験を延々と繰り返す羽目になっています。結局、その他の問題もあって、締め切りに間に合わず、締め切りを延長してもらいました。

この論文を含めて最近の私の論文はすべてで締め切りの延長をお願いしていることに気がつきました。この二年ほど、グラント書きと論文書きとリバイス実験ばかりに忙殺され、生産的なことはほとんどできていないことに気がついて、愕然としました。「自分は何をやっているのだろう」と暗い気持ちで職場を後にして、無能感と焦燥感で明け方に目が覚めることが多くなった日々です。

でも、あたりも外れもあるのが研究ですから、一発、素晴らしいデータが出ると、すべて上向きになるものですので、それまでは一歩一歩、歩き続けるしかないのです。淡々とやっている間に、悪い手札ながら、リーチをかけたら一発でつもってドラに裏ドラがついてアレヨアレヨと数え役満になったりすることが(稀に)起こったりします。そういう日がまた来ればいいな、と思いながらやってます。

オハイオ州立大(OSU)で研究不正のスキャンダル。Sicenceのフロントページに、OSUがイニシアチブをとって不正の調査を行って速やかに公表したという話が取り上げられていました。一人は台湾系の研究者、もう一人の名前の挙がっているCalro Croceは、それなりの有名人で、私の分野外ですが、数年前に講演を聞いたことがあります。あとづけに聞こえるかもしれませんが、講演は正直言ってひどいもので、そもそも英語の訛りがひどくて何を言っているのか不明な上に、スライドも何が書いてあるかさえ読めず、こんなにわかりにくい講演をする人がどうして、あのようなハイインパクト論文が書けるのだろう、と疑問に思った覚えがあります。この記事によると、昨年、New York TimesがOSUがCroceの不正調査をしていると報じ、これまでに8本の論文を撤回し、15本で訂正をしたとのこと。

OSUは一流の研究大学という位置付けではないと思います。そこに雇われて、有名雑誌にハイインパクト論文を連発してスターになったわけで、私も、最初に所属を知った時は違和感を感じました。運が良かったのか、才能が開花したのか、それとも別の理由なのか。しかし、結局、8本の論文を撤回したわけですから、これは、すべて不注意による間違いで不正の意図はなかった、と言い訳するのは無理があるな、と思います。(それでも、アベの支離滅裂で不誠実な言い訳よりは100倍はマシですが)

OSUとしては、不正に素早く対応することのメリットを重視したのでしょう。大学のスター研究者ですから、下手にかばった後でマズいことになるよりも、疑いの芽は早めに対処する方が長期的にプラスだと判断したのだと思います。この対応はOSUの学問に対する姿勢に対する評価にプラスになったことでしょう。(ウソにウソをかせねてシラを切り続け、証拠を隠蔽するアベ政権の今の状況を見れば、正直で誠実であることが最良のポリシーであることは自明です)

一方で、研究者は厳しい競争と出版へのプレッシャーの中、インフレに対応しないばかりか、年々削られる研究費と、年々厳しくなる規制の中でギリギリで研究している人が多数です。その中で、研究内容ならびに厳密さに対する要求は過大となり、あちこちでムリをしないと生き残れないという状況があります。そこに、研究の厳密さと成果というある意味、相反する価値を研究者本人の責任において要求されるわけで、ここに不正の起こるメカニズムがあるのだろうと思います。

ただでさえ、ストレスの中でギリギリでやっている研究者ですから、組織が必要以上にポリシングするようなことをするのは、私は反対です。結局、研究者の心がけなのですから。どんなに規制や罰則を強めても、不正を行うものは行うでしょう。ならば、それは正直にやっている多くの研究者にとって要らぬ制限をかけて、萎縮させる結果になるのではないかと思います。ただし、不正が疑われた場合に、速やかに疑いを晴らすのは研究者の義務ですから、その際に大学がタイムリーに介入するというのは透明性を確保するという点で良いことだと思います。

(さしづめ、アベ政権は、大学ぐるみで不正をやって、その主犯が学長でありながら、「真実を解明して、膿を出しきる」とか言っているようなものです。今回は、「お前が国難」に続いて「お前が膿」と呼ばれているらしいですが、膿が海を渡った訪米でした。)
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