生家は古い造りなので、玄関から勝手口まで家の内部に三和土(たたき)の廊下がある。
新潟地震も伊勢湾台風も中越地震も中越沖地震も経て、おんぼろの隙間だらけの廃墟寸前のたたずまい。
三和土に置いてある陶器の傘立てに、竹箒を逆さまに挿しているのだが、その箒にカマキリの卵嚢が産み付けられてあった。
少し割れているようにも見えるので、去年のものが孵化した後の空っぽかも知れないと考えた。
それでも硬くて、素手で潰せるとか、爪で割れるような代物ではない。
子どもの頃、手に負えないものに対する破壊衝動のままに、石で叩き潰したことがある。
黄色い汁がでて、悪いことをしたな、という気分になったような、とにかく汁を記憶している。
20年以上前に一度だけ、卵嚢から多くの糸が垂れ下がっていて、孵化したての小さいカマキリがたくさんぶら下がっているのを観た。
卵嚢の上にも茶色い小さなヤツらがいて、それを何倍も大きくした茶色のカマキリが、出てきたばかりのチビをむしゃむしゃと喰っていた。
雌は自分の背中に乗っている交尾中の雄でさえ喰ってしまうほどだから、喰っていたカマキリは、成長した秋の姿の3分の1もあるかないかなので、チビカマキリは格好の餌だったに違いない。
竹箒の卵嚢をどうしても調べてみたくて、子どもの頃と違い道具も揃っているから、カッターナイフで切ってみた。
最近産み付けられた卵嚢と分かり、悪いことをした気分。
カマキリの卵嚢が産み付けられている高さで、冬の積雪の多寡を予想出来るとか何とか言うけれど、信用できない。
まして隙間だらけの家だけれど、忍び込んで産み付けた卵嚢は雪に埋もれる心配がないわけで、その辺りを計算してのことかどうか。
産み付けられた高さは1.5mほど。