和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

「坊っちゃん」を選ぶ。

2006-12-05 | Weblog
「私が選んだ文庫ベスト3」(ハヤカワ文庫)をめくっていると、ワクワクしてくるのでした。その帯には「本読みの達人140人 異色の読書ガイド」とあります。たとえばドナルド・キーンさんが井原西鶴の文庫3冊を選んでおりまして、その説明で、
「西鶴を原文で読むことはかなりむずかしい。終戦直後、コロンビア大学で、戦時中日本語を覚えた四、五人の元軍人は、角田柳作先生のもとで『好色五人女』を通読した。外国の教室で始めてのことだったろう。使っていたテキストは悪名高き有朋堂文庫本だった。いくら考えても理解できなかった難解なところに何の注もなかったが、『江戸』に『現在の東京』あるいは『孔子』に『支那の偉人』のような注はいくらでもあって、腹立たしかった。」とあります。
ちなみにキーンさんの「日本文学のなかへ」(文藝春秋)のp148~149には、
脚注についての覚醒と覚悟を語った箇所があり別の視点から印象に残ります。

さて、半藤一利さんは夏目漱石の文庫ベスト3を挙げていました。

 ①漱石書簡集   (岩波文庫・三好行雄編)
 ②坊っちゃん   (集英社文庫)
 ③漱石文明論集  (岩波文庫・三好行雄編)

という選択です。その「坊っちゃん」の箇所は思わず唸ってしまいそうです。こうです。
「小説では『坊っちゃん』が好きだから、文庫はすべてとりそろえ、気分によってとり変えて読んでいる。勉強したいときは注の数194といちばん多い岩波(角川140、集英社155、新潮54)がいい。原文にもっとも近い雰囲気を味わいたいときは新潮。角川、集英社は漢字を開き(仮名書きにし)すぎだが、集英社が活字も大きく助かる。若い人にはこれを勧める。ところで各社の注だが、『ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ師の・・・・わんわん鳴けば犬も同然な奴』という有名な坊っちゃんの啖呵、どれも香具師とモモンガーと岡っ引きの三つに注がかぎられている(新潮はまったくなし)など、少々芸がなさすぎるぞな、もし。」

うんうん。こういう坊っちゃん好きがいるのですね。
ちなみに「私が選んだ文庫ベスト3」には古井由吉・選の夏目漱石もありました。
こちらは、作家が選んだ。という舐めつくすような趣味を感じます。

 ①思い出す事など 他七篇   (岩波文庫)
 ②硝子戸の中         (角川文庫)
 ③夢十夜 他二篇       (岩波文庫)

という取り合わせ。古井さんの語り始めがふるっています。
「また尋ねられれば、また違った答えになるだろう。・・・・」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする