和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

惑(まど)へる我らを見ん。

2022-07-05 | 古典
参院選挙の当日投票を誰に、そして
どこへとしようかまだ迷っています。

それはそうと、徒然草でした。
第194段のはじまりは

「達人の人を見る眼は、少しも誤る所、有るべからず。」

とあります。そのあとに、
『嘘を聞いた時の人々の反応を』10通りに分類するのでした。
10の『人、有り。』として観察しながら描き分けております。

引用する前に、まずは10通りの分類目次。
( ここは、島内裕子さんの訳で引用してみます )。

① 言われるままに誑(たぶら)かされる人がいる。
② さらなる嘘を言い添えてしまう人がいる。
③ 注意を払わない人がいる。
④ 逡巡する人がいる。
⑤ それ以上は考えない人もいる。
⑥ ちっともわかっていない人がいる。
⑦ あやしむ人がいる。
⑧ 手を打って笑う人がいる。
⑨ 知らない人と同じようにしている人もいる。
⑩ 嘘を広めるのに力を貸す人がいる。


ここは、原文を読むと、私はチンプンカンプンなので
島内裕子さんの訳で十通りの分類を読んでゆくことに、

訳】 達人が、人間を見る眼は、ほんの少しも見誤ることはない。
 例えば、ある人が、世間に嘘を流布させて人を誑かそうとする時に、

① その嘘に対して、率直に本当のことだと思って、
  言われるままに誑かされる人がいる。

② また、余りにもその嘘を深く信じてしまって、
  さらなる嘘を言い添えてしまう人がいる。

③ また、嘘を聞いても、何とも思わないで、
  注意を払わない人がいる。

④ また、その嘘をどう受け取ったらよいか、よくわからなくて、
  信用するでもなければ、信用しないでもなく、逡巡する人がいる。

⑤ また、本当とは思わないが、他人がそう言うのであれば、
  そうなのかと思って、それ以上は考えない人もいる。

⑥ また、いろいろと推量して、自分で納得したように、賢そうに頷いて、
  にこにこしているが、ちっともわかっていない人がいる。

⑦ また、自分で推測して、『ああ、そうなのだろう』と思いながらも、
  やはり、もしかしたら誤りもあるのではないかと、あやしむ人がいる。

⑧ また、『何も変わったことはない』と、手を打って笑う人がいる。

⑨ また、嘘だと心得てはいるが、『嘘だと知っている』とも言わず、
  はっきり知っている真相についても、何かを言うでもなく、
  知らない人と同じようにしている人もいる。

⑩ また、この嘘の主旨を最初から心得ているのだが、嘘だからといって、
  少しも反発せず、この嘘を作り出した人と同じ気持ちになって、
  嘘を広めるのに力を貸す人がいる。


はい。原文は私には意味がとりにくいのですが、
簡潔でしかも、『人、有り。』とリズムがあり、
ここはやはり、原文も引用しておくことに。

「 達人の、人を見る眼は、少しも誤る所、有るべからず。
 例へば、或る人の、世に虚言を構へ出だして人を謀る事有らんに、

① 素直に真と思ひて、言ふままに謀らるる人、有り。

② 余りに深く信を起こして、猶、煩はしく虚言を心得添ふる人、有り。

③ また、何としても思はで、心を付けぬ人、有り。

④ また、いささか覚束無く覚えて、頼むにもあらず、
  頼まずもあらで、案じ居たる人、有り。

⑤ また、真(まこと)しくは覚えねど、人の言ふ事なれば、
  然(さ)もあらんとて、止みぬる人も、有り。

⑥ また、様々に推し、心得たる由して、賢げに打ち頷き、
  微笑みて居たれど、つやつや知らぬ人、有り。

⑦ また、推し出だして、『あはれ、然るめり』と思ひながら、
  猶、誤りもこそ有れと、怪しむ人、有り。

⑧ また、『異なる様も、無かりけり』と、手を打ちて笑ふ人、有り。

⑨ また、心得たれども、『知れり』とも言はず、
 覚束無からぬは、とかくの事無く、知らぬ人と同じ様にて過ぐる人、有り。

⑩ また、この虚言の本意を初めより心得て、少しも欺かず、
  構へ出だしたる人と同じ心に成りて、力を合はする人、有り。

愚者の中の戯れだに、知りたる人の前にては、
この様々の得たる所、言葉にても顔にても、隠れ無く知られぬべし。

まして、明らかならん人の、惑へる我らを見ん事、掌の上の物を見んが如し。

ただし、かようの推し量りにて、仏法までを
準(なずら)へ言ふべきにはあらず。  」
           ( p380~381 ちくま学芸文庫 )

うん。最後は、第194段の島内裕子さんの『評』の
最初と最後から引用。

「嘘を聞いた時の人々の反応を、精緻な観察と、
 精緻な分類によって、十通りに描き分けており
 ・・・・・・・」

「なお、幕末の志士である坂本龍馬は、姉に宛てた手紙の中で、
 先生と仰ぐ勝海舟の凄さを、
 『達人の見る眼は恐ろしきものとや、つれづれにも、これ有り』
  と書いている。   」
                ( p382~383 文庫 )



コメント (4)
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