和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

よい本には、よい書評が。

2022-12-01 | 本棚並べ
単行本を買ってあると、それが文庫本になっても、
つい億劫で、買わないでいることが多いのでした。

けれども、その文庫が古本で手にはいるとなれば、
話は別で。さっそく買うことに。

黒岩比佐子著「パンとペン」(講談社文庫)。
お目当ては、解説で、梯久美子さんが書いてました。
その解説のはじまりは

「よい本には、よい書評が書かれる。
 本書が2010年10月に単行本として刊行されたとき
 新聞や雑誌に掲載された数多くの書評を読み返し、
 改めてそう思った。・・・」(p625)

この本には副題があって
「社会主義者・堺利彦と『売文社』の闘い」とあります。

解説の梯(かけはし)さんは、その売文社にも
ふれておられました。

「それにしても売文社とは、何と人を食った
 痛快なネーミングであろう。売文、つまり
 生活の糧を得るために文章を売ることが、

 現在よりもずっと賤視(せんし)されていた時代である。
 それを、思想に殉じるのが当然とされる社会主義者の
 長老格であった堺が堂々とかかげたのだ。

 顰蹙も買ったが、真似をする者もあり、
 各地で売文社を名乗る会社が生まれた。

 『あとがき』によれば、黒岩さんが本書を著わす
 ことになる最初のきっかけも。売文社という語の
 強烈なインパクトに惹かれたことだったという。 」

「売文社は、新聞、雑誌、書籍の原稿をはじめ、
 意見書や報告書、趣意書から広告コピー、書簡まで、
 あらゆる文章の代筆および添削を行い、また各国語の翻訳も請け負った。 
 日本初の編集プロダクションであり翻訳会社である。

 そのユニークな活動内容については、
 本書の第六章から八章にくわしく書かれており、
 ここで説明する必要はないだろう。この三つの章は、
 知的興奮に満ちていて、何度読んでも実に楽しい。

 堺と売文社が残した。文学史には載っていない
 意外な足跡を、著者がさまざまな資料との出会いによって
 発見していく過程を、読者も共有することができる。 」


うん。内容は私のことですから、すっかり忘れていたのですが、
ここですよと、スポットライトをあててくれたような解説です。

この梯久美子さんの解説でわすれがたい箇所がありました。

「黒岩さんのパソコンには、
 『 慢心するな。オマエは何サマなのか。
   謙虚に、慎重に、丁寧に 』
 と書かれたメモが貼ってあったという。
 謙虚、慎重、丁寧――黒岩さんはまさに、
 そのように書き、そのように生きた人だった。

 事実を書くということに対して、
 彼女ほど誠実な人をほかに知らない。
 この解説文を書くために本書を読み返し、
 この清潔な文体は彼女そのものだと改めて思った。」(p633)


うん。『本書の第六章から八章に』ですね。
今度、あらためて読みなおしてみます。 

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4 コメント

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Unknown (1948219suisen)
2022-12-01 12:09:33
>よい本には、よい書評が書かれる。

そういう意味でも、優れた書評は何よりの広告になりますね。私なども本を買う時は書評を読んで買うことが多いですから。最近はブックレビューかな。
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こんにちは。 (和田浦海岸)
2022-12-01 12:16:10
こんにちは。水仙さん。
コメントありがとうございます。

私は、古本を選ぶ時には、
題名と、著者名に目がいきます。
ネット注文が主なので、
安い駄菓子のような気分で選びます。
本の中で思わぬ出合いがありますね。
返信する
文庫の「解説」 (kei)
2022-12-01 14:43:45
こんにちは。
単行本を買っていながら、文庫本を「億劫で買わない」  
億劫!?と一瞬。そんな勿体なことを、などと。
でも、そうでしたそうでしたと思い当たりました。
文庫本の「解説」ですね。
古本でなくても、単行本で読んだものが文庫化されて、解説を立ち読みしてしまうことあります。
コロナ禍、「立ち読みをお断りします」とやけにアナウンスされますが。

売文社、教えていただきました。
文を売っていた会社があったのですね。活動など知りません。

梯久美子さんの新著『この父ありて』を取り上げた新聞記事、
切り抜いたものの昨日読めなかったので、今朝目を通したところでした。
返信する
そうそう。 (和田浦海岸)
2022-12-01 15:52:58
こんにちは。keiさん。
コメントありがとうございます。

梯久美子の作品は一冊
「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官栗林忠道」
を読んだくらいだったと思います。

この頃、新刊を買おうとすると、
この値段で、古本なら何冊買えるなどと
つい思ってしまいます(笑)。

そうして買わずに時すぎ、
また古本として再会する。
そうそう、この本だった。

そんなんことを、何度か
繰り返す年となりにけり。

ここで、『けり』がつく。
返信する

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