和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

『シンデレラ』と『鉢(はち)かづき』。

2023-04-23 | 本棚並べ
御伽草子の『鉢かづき』をひらく。

清水義範の現代語訳『おとぎ草子』(講談社「少年少女古典文学16」1992年)
「じつはこの鉢かづきの話は、日本のシンデレラなんていわれているのだ。」
    ( p89 「清水義範:おとぎ草子。ねじめ正一:山椒大夫 )

「考えてみればひじょうによく似ている。どちらも継母にいじめられて
 苦労する話である。・・・

 そして、シンデレラは、かまどで炊事をする役をおしつけられ、
 毎日火をたくのである。風呂番をした鉢かづきと、
 やらされることまで似ているではないか。

 そういうわけで、シンデレラはかまどでまっ黒けなのである。
 シンデレラは、『灰だらけのエラ』という名で、つまり
 『灰だらけ姫』とか、『灰かぶり姫』という意味である。

  鉢かづきも、そうだったのである。・・        」( ~p90 )


はい。あまりシンデレラにかかわると、先へすすめません(笑)。
鉢かづきは、継母にいじめられ、家を出なければならなくなります。
それはそうと、はじまりでした。ここも清水義範の現代語訳で

「『河内(かわち)の国の交野(かたの)』(いまの大阪府東部)
 というころに、備中守さねたかという人が住んでいた。
 お金持ちで、教養があり、なんの不自由もなく暮らしていた。

 その奥方は、これも和歌などの教養もあり、
 月の美しさに感動する心をもった、申し分のない人であった。」

この奥方が亡くなり、継母が来てから、鉢かづきは家を出されます。
そして、川に流されたりして、ゆくあてもなく歩いているのでした。
以下は、永井龍男の現代語訳で引用をつづけます。

「・・鉢かづきが通りかかったので、中将は・・素性を尋ねると、

 『 わたくしは交野の辺に住んでいる者でございますが、
   母親に早く死に別れ、その上頭の上にこんな鉢をのせた
   かたわになりましたが、あわれをかけてくれる者もないままに
   家を出て、あてもなくさまよい歩いております。 』

   ・・・
 『 これからどこへ行くつもりか? 』と、中将は尋ねる。

 『 どこといってあてもございません。
   こんなかたわ者では、だれも気味悪がって、
   可哀そうにと言ってくれる人もありません 』

  と言うので、中将は、

 『 こういう変り者の娘がいるのも面白かろう 』

 と、鉢かづきを自分の屋敷においてやることにした。

 『 何か身につけた技能でもあるか? 』と、尋ねると、

 『 亡き母から習いましたのは、琴や琵琶、和琴、笙、篳篥(ひちりき)
   などの音楽や、万葉集、古今の和歌、伊勢物語やお経を読んだり
   することばかりで、ほかにこれという能もございません 』というので、

 『 それでは、湯殿の番でもするがよい 』と、中将が言いつけた。

 鉢かづきは、寄るべない身であれば、これもうき世のならいとあきらめ、
 今までしたこともない湯殿の火たき女として働くことになった。
 家人に気味悪がられたり、なぶられたりしながら、
 朝は暗いうちから夜更けまで・・・・           」

         ( p53~55 「お伽草子」ちくま文庫・1991年 )

はい。ここからが、御伽草子『鉢かづき』の山場なのしょうが、
私の興味はここまでとなります。

最後は、私が印象残る箇所を、原文で反芻してみることに、

「 ・・・
 『 身の能(のう)は何ぞ 』と宣(のたま)ひければ、

 『 何と申すべきやうもなし。母にかしづかれし時は、
   琴・琵琶・和琴(わごん)・笙(しょう)・篳篥(ひちりき)、
   古今・万葉・伊勢物語、法華経八巻、数の御経(みきょう)
   ども読みしよりほかの能もなし 』

 『 さては能もなくは、湯殿(ゆどの)に置け 』とありければ、

 いまだ習わぬことなれど、時に従ふ世の中なれば、
 湯殿の火をこそ焚かれける。              」

   ( p169 全訳注桑原博史「おとぎ草子」講談社学術文庫・1982年 )

この学術文庫での、鑑賞で桑原氏は、こう指摘されておりました。

「 また、なにか特技はと問われて、
  管弦のわざと書物による教養とを正直にいっても、
  
  相手は実用的な技術を期待しているので、
  能なしと判断されるくいちがいも、おかしい所である。

  その結果として、湯殿の火を焚く運命に見舞われるのは、
  悲しいことでもあるが。               」( p173 )
 







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