和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

まったくおめでたい話。

2023-04-24 | 本棚並べ
本を読むのですが、すぐ飽きる。
すぐ飽きても、また潮が寄せるように、
おんなじ本を読みたくなることがあります。

はい。そういう自分なりの興味の移り気がわかってくると、
読まなくても関連古本があれば買っておく習慣がつきます。

関連古本には、御伽草子もありました。
この機会に、購入古本のまとめとして、
読み齧りして御伽草子を取り上げます。

岩崎書店の日本古典物語全集17・市古貞次著「おとぎ草子物語」(昭和50年)
この解説で市古氏は、こう指摘されておりました。

「 たくさんあるおとぎ草子の中で、
  室町時代から江戸時代へかけて、もっとも読者から
  よろこばれたのは『文正(ぶんしょう)草子』という作品でした。 」

「常陸の国(茨城県)の鹿島の大宮司(神主)の家に奉公している
 文太(ぶんた)という下男が、ひまを出されて、海岸で塩焼き(製塩)を
 はじめました。・・・  」

この文太(後に名を文正にかえる)の出世話なのでした。

「・・この本のはじめには、
 『 世の中で、めでたいことは多いが、文正ほどめでたい人はない 』
 と書いてありますし、おわりにも、
『 まずまずめでたいことのはじめには、この本をごらんなさい 』
 と書いてありますが、まったくめでたい話なのです。

  それが正月の本の読み初めには、
  みんながこの本を読んだということです。・・・  」(p294~295)


ここいらあたりを、バーバラ・ルーシュさんはこう語っております。

「たとえば、主人公が大変成功し出世するというおめでたい物語
 『文正草子』を例にとってみよう。

 この物語は、江戸時代に入ってから、読み初(ぞ)めという
 古くからの年中行事の一つとして、お正月にそれぞれの家庭で音読された。
 
 これは、この物語が成功を語るがゆえに、それを読めば自分たちも
 成功すると人々が信じていた証拠だと思われる。

 このような、書物のお守り的性格、あるいは魔術的性格は
 日本の中世に独特な現象ではなかった。

 たとえば、中世のヨーロッパでは、書物自体が人々を病気から守り、
 また戦争で勝利をもたらすと信じられていたのである。・・・

 ・・・わたくしがいいたいのは、中世小説を盛る器ともいえる
 奈良絵本の世界の独特さである。奈良絵本の世界は生きた世界で、
 一つの有機物といえる。当時の日本人は、この世界のなかに、
 無意識のうちに自分たちの性格にぴったり一致した物語を入れたのである。
 ・・・・

 しかし、残念に思うのは、この世界の存在が今日の日本人から
 忘れ去られてしまっていることである。・・・・・

 逆に『中世小説って何でしょうか。』と問われる次第である。
 たとえば、『御伽草子ですよ』と答えると、
 『ああ御伽話ですか』という始末である。

 確かにのちに子供のために御伽話に書きかえられた話もあるが、
 これを聞くたびにわたくしはがっくりしてしまう。と同時に、

 中世の日本人が創ったこのすばらしい世界を、現代の日本人が、
 これほどまで無視してしまってよいのか、わたくしは非常な疑問を感じる。

 今後、すばらしい発展を遂げてゆくためにも、
 また、その発展の方向を定めてゆくためにも、
 国民性を知ることはとても重要だと思われる。

 そのためには、日本人の国民性のルーツともいうべき 
 奈良絵本の世界をもっと大事にする必要があるのではないだろうか。
 ・・・           」( p107~110 )
  (バーバラ・ルーシュ著「もう一つの中世像」思文閣出版・平成3年)



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