和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

太宰治の『人生ダ』。

2023-10-15 | 詩歌
松下緑著「『サヨナラ』ダケガ人生カ」(集英社・2003年)
を本棚に見つけたので紹介。
井伏鱒二著「厄除け詩集」を思うと、この本を思い浮かべます。
読みたかった箇所をひらく。

「『サヨナラ』ダケガ人生ダの一句は、
 井伏さんの弟子、太宰治が愛誦して世に広まった。

 太宰は戦後、無頼派文学の旗手として、
 生の破滅をテーマに多くの作品を発表したが、
 朝日新聞に連載小説『グッド・バイ』を書き出してまもなく、
 心中して果てた。

 まさにサヨナラダケが彼のテーマだった。しかし、
 一期一会とは言っても一期一別とは言わない。

 人は生まれて誰と出会うか、その出会いこそがその人の生涯を決定する。
 サヨナラダケが人生ではない。その出会いには
 古今東西の書物や音楽、信仰なども含まれよう。

 于武陵(うぶりょう)の詩の後の二句は
 『 花が咲くと雨風がそれを散らしてしまうことが多いように、
   人は生きてゆく間に多くの別離を経験する 』
 ということであろう。

 私は自分なりにこの詩を訳してみて、サヨナラダケガ人生ダ
 という断定的な表現をいぶかしく思うようになった。・・・」(p96~97)

はい。ここでは、最後に漢詩と3人の現代語訳を引用しておきます。
まずは、于武陵の読み下し

      君に勧む金屈巵(きんくつし)
      満酌辞するを須(もち)いず
      花発(ひら)けば風雨多し
      人生別離足る

つぎに、井伏鱒二訳、松下緑訳、潜魚庵訳とならべてみます。

     コノサカヅキヲ受ケテクレ
     ドウゾナミナミツガシテオクレ
     ハナニアラシノタトヘモアルゾ
    「 サヨナラ 」ダケガ人生ダ


     金ノサカズキヒトイキニ
     ホシテ返シテクレタマエ
     花ガヒラケバアメニカゼ
     人ハワカレテユクモノヲ

    
     サラバ上ゲマシヨ此盃ヲ
     トクト御請(おう)ケヨ御辞退無用
     花ノ盛リモ風雨ゴザル
     人ノ別レモコノ心(ここ)ロ      ( p94~95 )


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かたければ。なおかたし。 | トップ | 76歳の、親鸞と増谷文雄。 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

詩歌」カテゴリの最新記事