産経新聞9月7日の一面見出し「中国は尖閣奪取に自信」。
脇には「フォークランド紛争の侵攻手法に学んだ」とあります。
「アルゼンチンが英領フォークランド諸島に侵攻した
1982年のフォークランド紛争で英軍の上陸部隊を指揮した
トンプソン元少将(85)が産経新聞の取材に応じた。
同氏は『中国はアルゼンチンの強引な手法を学んでいる』
と警鐘を鳴らし・・・
トンプソン氏は『(紛争当時)アルゼンチンは英国から
領土を奪えると信じた』と指摘した上で、
『中国も日本が(尖閣防衛に)対応する能力や意思を
持っていないと考え、侵略が成功すると信じている』
と述べた。中国が2012年、フォークランド諸島の領有を
主張するアルゼンチンへの支持を表明したことなどに触れ、
紛争での侵攻手法などを学んでいるとした。・・・・」
この記事は、2面・3面へと続いておりました。
ところで、
清川妙著「つらい時、いつも古典に救われた」(ちくま文庫)で、
「唐土(もろこし)の使者がきて難題を吹っかけた」という文が
枕草子に出てくることを指摘されております。
せっかくですから、清川妙さんの文から引用させていただきます。
「昔の帝が、ただ若い人だけを大事にして、40になった人の
いのちを絶っておしまいになったので、40以上の人は、みな
遠い国に逃れて隠れ住んでしまい、都のうちには、
若い人しかいなかった。その頃、中将の位を得てときめいていた人が、
70に近い両親を持っていたが、たいへんな孝行者で、こっそりと
地下室を掘り、その中に二人を隠しておき、一日に一度は顔を見にいった。
あるとき、唐土の帝が、この国の帝に、試みごとを
しかけてきたことがあった。この国の人たちの知恵を試し、
知恵がなければ討ちとろうという魂胆であった。
お使いは、つやつやとまるくきれいに削った二尺ばかりの木を
取り出して見せて『この木の根もとのほうと、先のほうを、
どうして見分けますか』と問うた。
だれにきいても、そんなことは分かるはずもなく、この国の帝は
悩みぬいておられた。中将は、帝を気の毒に思った。
ひそかに地下室に行って親に問うと、『流れの早い川の傍に立ち、
横向きにその木を投げ入れよ。ぴょこんと立って流れるほうが先のほうだ』
と教えた。実際にそうして、先のほうに印をつけて、
唐土の使者に渡すと、みごとに正解であった。
だいぶ経ってから、また唐土の使者がきて難題を吹っかけた。
七曲がりの玉で、中に穴が通って、左右に口があいているのを持ってきて、
『これに糸を通してください。わが国では、だれでもできることです』
と言う。このときも、すべての人々は、できないと首を振った。
中将は老いたる親のところに行き、知恵を乞うた。
『大きな蟻を捕え、その腰に細い糸をつけ、その糸にもうすこし
太い糸をつけなさい。向こう側の出口に蜜を塗り、こちら側から
蟻を入れなさい』
その教えの通りにすると、蟻は蜜のあまい香りをかいで、
さっとすばやく、穴をくぐりぬけて、あちら側に出たのであった。
帝はたいへん喜ばれ、中将に『この功に、何をもって報いようか。
どんな官位につきたいか。なんなりと望みを申せ』と仰せになった。
中将は『官位などにはなんの望みもございません。ただ、
老いたる父母がどこかに隠れておりますので、探したずねて、
都に呼び戻したいのでございます』と答え、帝も快くお許しになり、
国中の親と子は大喜びをしたのであった。
この話は、『枕草子』の社(やしろ)の段に出ていて、
蟻通の明神の起源を語っているのだが、中将のことばを原文でいうと、
『さらに、司(つかさ)も冠(かうぶり)も賜はらじ。
ただ老いたる父母の隠れ失せてはべる、たづねて、都に
住ますることを、ゆるさせたまへ』
というところ、子のやさしさが身に沁みて涙ぐましい。」
(p44~47)
なにやら、イソップ物語を連想してしまいそうになります。
いつの時代にも『また唐土の使者がきて難題を吹っかけた』。
そして『このときも、すべての人々は、できないと首を振った』。
なんだか、モロコシが、チャイナにダブります。
さてっと、清川妙さんは、このあとに、こう書いておりました。
「『枕草子の教室』で、この段を講義したあと、
私はこんなことを言った。
『アフリカのギニアから来ていらっしゃる外交官のサンコンさんが、
【年寄りが亡くなるのは、図書館がひとつなくなるようなものだ】と
おっしゃっているのを聞きましたが、なんといいことばでしょう』
それから、ちょっとつけ加えた。
『私も古典の小さな図書館になりたい。あまり本はたくさんないけれど、
そこに行ったらとても愉しい雰囲気があるような、そういう
小さな図書館になりたいと思います』」(p47)
はい。尖閣諸島と、唐土の使者と、古典の小さな図書館。
ちなみに、岩波文庫の「枕草子」では、
「244 蟻通の明神」にあり、p272~275です。