現代教養文庫の「要説日本文学史」(1977年)は、
伊藤正雄・足立巻一著とあります。
ひらけば、枕草子をとりあげた箇所が、短いながら、
印象深いのでした。
「わが国随筆の祖『枕草子』」と指摘されております。
はい。短い2頁ほどの文をさらに短く引用します。
「枕草子は約300段に分かれ、日常の見聞や随時の感想を
雑然と記したものである。作者は、気を負い才に誇る勝気の女性であった。
同性の儕輩(せいはい)について語ることきわめてまれで、
凡庸の男性もこれを揶揄して憚らなかった。
堂々たる男子をして後(しり)へに瞠若(どうじゃく)たらしめるところ、
本書はあたかも作者の自讃録(じさんろく)たる観さえある。
本書の生命は、
犀利な観察と、鋭敏な感覚と、縦横の機知とに存する。
四季自然の描写のごとき、いかにも着眼が清新で、
微妙な詩趣を随所に捉えている。
人事に対する観察もまた奇警で、事件を長編の物語に
構成するような組織的手腕には欠けていたが、
刹那の印象を把握する感覚と機知の閃きとにおいては、
まれにみる天才であった。
『何々なるもの』という「ものは尽し」の段のごときは、
最も作者の素質を発揮した独擅場(どくせんじょう)であろう。
その文章は、よく漢文の特徴を咀嚼して、
完結奇勁(きけい)、長短錯落、変化の妙を備えて、
悠長な宮廷女流文学中に大きな異彩を放っている。
源氏物語に『あわれ』の語の多いに対し、
枕草子に『をかし』の語が多いのも、両者の特質をよく示すものである。
かれが人情の上より美を創造したのに対し、
これは感覚の上より美を発見したものともいえよう。
枕草子の後世文芸への影響は、源氏物語ほど大きくはないが、
『徒然草』以下の随筆を起こし、江戸時代の俳文などにも
少なからぬ関連をもっている。・・・・」(p66~67)
『よく漢文の特徴を咀嚼して』と本文にありますが、
その枕草子の魅力を語るに際して、難しい漢字をもってきて、
人間関係の微妙な深みを、簡略自在に示す手腕。
現在では望むこともできない文学史となっておりました。
読めてよかった。2頁で枕草子をまとめておられました。
そのあとに、例文として『憎きもの(24段)』と
『香炉峰(かうろほう)の雪(354段)』とを引用されて満足。
うん。これを読まなければ損するところでした。