秋野不矩著「バウルの歌」(筑摩書房・1992年)は以前に読み、
また、読み直そうと思いながら本棚に眠っておりました。
スケッチブック(1977年)がそのまま載せてあったりと、
興味ぶかい一冊なのでした。
すこし読んだので、すこし引用。
「私がインドへ行ったのは1961年・・・
それから渡印すること8回、そのうちの3回は、
一年がかりの旅だったから、インド滞在はのべ4年になる。
・・・・・・
私はインドについては何も知らなかった。ただ若いころから
描きたいと思った絵のことを思い出す。太陽が真上から直射する
炎天下、救いようのない熱さの中でわっと泣いている裸の子ども
の姿である。・・・・
そのころ(1961年当時)私は京都市立美術大学で
日本画を教えていた。あるとき、仏教美術の研究でインドから
帰られたばかりの佐和隆研先生が日本画の研究室に来られ
『日本画の先生でインドの大学に行ってくださる方はありませんか』
と聞かれた。私は即座に『私、行きます』と言ってしまった。」
(p83~84)
『マドバニの絵』という4頁ほどの箇所は、
スケッチと言葉が、溶けこんでいるようです。
ここでは、その言葉だけを引用。
「マドバニの村落はビハール州の北端、
ネパールには歩いてゆける地域にある。
その日暮しの、貧しい農村であるが
この村に入ると、家という家の庇(ひさし)の下、
壁という壁、堀という堀、いたる処、
壁絵がサンサンたる陽光の下に唄うように、
あふれるように色彩豊かに描かれている。
これらはすべて村の女人によって描かれたもので、
その家の信仰するデゥルガ女神、カーリー女神、
クリシュナ物語のクリシュナとラダ、クリシュナとゴビ、
花や鳥、象や羊、壁を埋めたこれらの絵は明るく
笑うように人々の心に問いかける。
村祭りの図。
子どもも羊もうれしそうに踊っている。
いのちの樹のシンボル。
壁いっぱいにひろがって、
実に大胆なデザインである。」(p113~118)
はい。完成度の高い、白黒のデッサンに
そえられた言葉を紹介しました。