西川美和監督の新作映画「夢売るふたり」を劇場で見てきた。
広島出身の美人監督西川美和の前作「ディアドクター」「ゆれる」「蛇いちご」はいずれも傑作である。現代の日本映画界では実力ナンバー1とも言える彼女の新作がでるのをずっと楽しみにしていた。
公開された後、なかなか見に行けなかった。この映画も期待を裏切らない傑作だと思う。松たか子さんは新作出るたびに実力をつけているのがよくわかる。
東京の私鉄沿線で主人公夫婦(松たか子、阿部サダヲ)は居酒屋を営んでいた。九州出身の2人で切り盛りする店は繁盛していた。ある日夫が焼き鳥を焼いている時に、客の注文が来て焼き物から目を離したときに、火が燃え上がってしまった。懸命に2人は火を消そうとするが、火の粉はあがり店は全焼した。常連は大怪我はするし、2人は職を失う。
夫は料理屋の厨房人に、妻はラーメン店の店員になって働く。しかし、夫は勤め先の店主と大喧嘩、荒れた後に駅で酒を飲んでいたときに店の常連だった女性(鈴木砂羽)と駅のホームで出会う。
彼女は不倫相手の男性といつも2人で店に来ていたが、男性は危篤になってしまう。懸命に彼氏に面会したいという女性に、その弟(香川照之)は手切れ金を渡す。そのことで女性は荒れていたのであった。駅で彼女は嘔吐して夫の洋服を汚くしてしまう。
そのまま彼女の家に行った2人は意気投合し一夜を過ごす。お互いに事情を話しあった後に、彼女がもらった手切れ金を「店の資金」にしなさいよと封筒ごと渡してくれる。いったんは断るが、彼女が一発殴らせてくれという要望を受けて出て、一発殴られた後意気揚々と大金を持って家に帰る。
帰らなかった夫を探していた妻の元に、大金の入った封筒を持って帰ったのに驚く。偶然昔の友人にあって店舗開業のため借りたというが、妻は洋服が洗濯してあるので女の所に寄ったことに気づく。焦る夫、お金をもらった事情を夫から聞き終わった後で、妻はこの話はお金になると直感で思う。結婚できないハイミス女の気持ちを揺さぶってお金をいただく算段だ。
2人は高級日本料理屋に勤める。夫は板前で、妻は仲居さんだ。ある時ある姉妹がカウンターで会話しているのが耳に入った。キャピキャピの妹に対して、メガネをかけたインテリ風の姉(田中麗奈)は男に恵まれていない。自分の不遇に涙する彼女に夫は優しくする。カモと読んだ妻も加勢する。やさしくされた彼女は店に通うようになり、次第に2人の仲はちかづいていくのであるが。。。。
このあといくつかの女性に出会う。
デブの女性重量挙げ選手、男に恵まれないデリヘル嬢、子持ちの公務員などそれぞれに物語は続く。
映画のストーリーはわかりやすい。途中退屈になる場面がない。一つの話に他の話が連続してくっついていく。この接続の手法がうまい。
この映画は語りだしたらネタが尽きない。それだけ重層構造だということだろう。
最初に出てきた鈴木砂羽や田中麗奈のインテリ風キャリア女性が妻子持ちに騙されるというのはよくあるパターンである。これだけで終わってしまったら、「直球」だけの普通の映画である。そこにデブの女性重量挙げ選手、男に恵まれないデリヘル嬢、子持ちの公務員といった「変化球」を加える。それぞれの変化球にはくせがある。簡単にはいかない。しかも、結婚詐欺を働こうする側にも大きな心理的な変化が出てくる。当然夫の心理に変化が出てくると、妻の方もおかしくなる。 細かいしぐさに女性監督目線の細工を加える。
直球のみだとストーリーが読めるが、迷彩がかなり散らばっている。結果を聞けば、誰もがそうなるのかと思うが、上映途中は意外にわからない。一時間強たった後で、映画の展開どう決着付けるのかと思った。 次にどうなるんだろうと想像するのが楽しい!そういった中、第三の人物も登場させ収束に向かう。多少強引だがうまい。
それでも最後の終わり方は西川女史にも迷いがあったのであろう。
以前見た「ゆれる」の終わり方にはっとした。あのエンドと余韻の残し方はすごい。
今回は松たか子をクローズアップさせる。個人的にはちょっと違うかなあという印象だ。
どうせなら成瀬巳喜男監督「乱れる」ラストで高峰秀子が見せたような表情がよかったと自分はおもう。
だからといって悪いわけじゃないけど。。。
松たか子は「ヴィヨンの妻」で居酒屋のおかみさんを実にうまく演じた。こんな女性がいたら毎日通いたくなるようなおかみさんだ。今回のスタートもその姿だ。でも今回の方が少しずるさを見せる。もともと松本幸四郎の娘で典型的白百合女子のお嬢さんの彼女が、社会の底辺に近い所で彷徨う女性を演じている。凄いギャップだが、結婚もしている大人の彼女からしたらワケないことかもしれない。
その他の配役についてもみんなうますぎるし、配役が実にうまい。阿部サダヲはまさに適役であろう。安定感がある演技を見せてくれた。三枚目キャラがいい。
鈴木砂羽は「スープオペラ」も同じような感じだったが、こういうキャリア女性役を演じると抜群にうまい。美人なんだけどなぜか売れ残ってしまったという女性割とよくいる。田中麗奈も30を過ぎてこういう役で役柄の幅を広げなければならない。いい転機になったと思う。
デブの女性重量挙げ選手には驚いた。実際にバーベルを持ち上げるのをみて本物の重量挙げ選手が演じているのかと思った。いろんなコメントを読んですごい役作りをしたと聞いてに再度びっくりだ。
木村多江は職業安定所の相談員として出てきて、香川照之と同じでちょっとだけの友情出演の形かと思っていた。それが意外な形の展開に変わっていった。この迷彩にはやられた。松たか子、木村多江の白百合女子高の先輩後輩コンビの葛藤が見せ場になる。
映画を見ていて、故伊丹十三がよみがえってきたような錯覚を覚えた。
いずれにせよ西川美和監督の才能に脱帽だ。
広島出身の美人監督西川美和の前作「ディアドクター」「ゆれる」「蛇いちご」はいずれも傑作である。現代の日本映画界では実力ナンバー1とも言える彼女の新作がでるのをずっと楽しみにしていた。
公開された後、なかなか見に行けなかった。この映画も期待を裏切らない傑作だと思う。松たか子さんは新作出るたびに実力をつけているのがよくわかる。
東京の私鉄沿線で主人公夫婦(松たか子、阿部サダヲ)は居酒屋を営んでいた。九州出身の2人で切り盛りする店は繁盛していた。ある日夫が焼き鳥を焼いている時に、客の注文が来て焼き物から目を離したときに、火が燃え上がってしまった。懸命に2人は火を消そうとするが、火の粉はあがり店は全焼した。常連は大怪我はするし、2人は職を失う。
夫は料理屋の厨房人に、妻はラーメン店の店員になって働く。しかし、夫は勤め先の店主と大喧嘩、荒れた後に駅で酒を飲んでいたときに店の常連だった女性(鈴木砂羽)と駅のホームで出会う。
彼女は不倫相手の男性といつも2人で店に来ていたが、男性は危篤になってしまう。懸命に彼氏に面会したいという女性に、その弟(香川照之)は手切れ金を渡す。そのことで女性は荒れていたのであった。駅で彼女は嘔吐して夫の洋服を汚くしてしまう。
そのまま彼女の家に行った2人は意気投合し一夜を過ごす。お互いに事情を話しあった後に、彼女がもらった手切れ金を「店の資金」にしなさいよと封筒ごと渡してくれる。いったんは断るが、彼女が一発殴らせてくれという要望を受けて出て、一発殴られた後意気揚々と大金を持って家に帰る。
帰らなかった夫を探していた妻の元に、大金の入った封筒を持って帰ったのに驚く。偶然昔の友人にあって店舗開業のため借りたというが、妻は洋服が洗濯してあるので女の所に寄ったことに気づく。焦る夫、お金をもらった事情を夫から聞き終わった後で、妻はこの話はお金になると直感で思う。結婚できないハイミス女の気持ちを揺さぶってお金をいただく算段だ。
2人は高級日本料理屋に勤める。夫は板前で、妻は仲居さんだ。ある時ある姉妹がカウンターで会話しているのが耳に入った。キャピキャピの妹に対して、メガネをかけたインテリ風の姉(田中麗奈)は男に恵まれていない。自分の不遇に涙する彼女に夫は優しくする。カモと読んだ妻も加勢する。やさしくされた彼女は店に通うようになり、次第に2人の仲はちかづいていくのであるが。。。。
このあといくつかの女性に出会う。
デブの女性重量挙げ選手、男に恵まれないデリヘル嬢、子持ちの公務員などそれぞれに物語は続く。
映画のストーリーはわかりやすい。途中退屈になる場面がない。一つの話に他の話が連続してくっついていく。この接続の手法がうまい。
この映画は語りだしたらネタが尽きない。それだけ重層構造だということだろう。
最初に出てきた鈴木砂羽や田中麗奈のインテリ風キャリア女性が妻子持ちに騙されるというのはよくあるパターンである。これだけで終わってしまったら、「直球」だけの普通の映画である。そこにデブの女性重量挙げ選手、男に恵まれないデリヘル嬢、子持ちの公務員といった「変化球」を加える。それぞれの変化球にはくせがある。簡単にはいかない。しかも、結婚詐欺を働こうする側にも大きな心理的な変化が出てくる。当然夫の心理に変化が出てくると、妻の方もおかしくなる。 細かいしぐさに女性監督目線の細工を加える。
直球のみだとストーリーが読めるが、迷彩がかなり散らばっている。結果を聞けば、誰もがそうなるのかと思うが、上映途中は意外にわからない。一時間強たった後で、映画の展開どう決着付けるのかと思った。 次にどうなるんだろうと想像するのが楽しい!そういった中、第三の人物も登場させ収束に向かう。多少強引だがうまい。
それでも最後の終わり方は西川女史にも迷いがあったのであろう。
以前見た「ゆれる」の終わり方にはっとした。あのエンドと余韻の残し方はすごい。
今回は松たか子をクローズアップさせる。個人的にはちょっと違うかなあという印象だ。
どうせなら成瀬巳喜男監督「乱れる」ラストで高峰秀子が見せたような表情がよかったと自分はおもう。
だからといって悪いわけじゃないけど。。。
松たか子は「ヴィヨンの妻」で居酒屋のおかみさんを実にうまく演じた。こんな女性がいたら毎日通いたくなるようなおかみさんだ。今回のスタートもその姿だ。でも今回の方が少しずるさを見せる。もともと松本幸四郎の娘で典型的白百合女子のお嬢さんの彼女が、社会の底辺に近い所で彷徨う女性を演じている。凄いギャップだが、結婚もしている大人の彼女からしたらワケないことかもしれない。
その他の配役についてもみんなうますぎるし、配役が実にうまい。阿部サダヲはまさに適役であろう。安定感がある演技を見せてくれた。三枚目キャラがいい。
鈴木砂羽は「スープオペラ」も同じような感じだったが、こういうキャリア女性役を演じると抜群にうまい。美人なんだけどなぜか売れ残ってしまったという女性割とよくいる。田中麗奈も30を過ぎてこういう役で役柄の幅を広げなければならない。いい転機になったと思う。
デブの女性重量挙げ選手には驚いた。実際にバーベルを持ち上げるのをみて本物の重量挙げ選手が演じているのかと思った。いろんなコメントを読んですごい役作りをしたと聞いてに再度びっくりだ。
木村多江は職業安定所の相談員として出てきて、香川照之と同じでちょっとだけの友情出演の形かと思っていた。それが意外な形の展開に変わっていった。この迷彩にはやられた。松たか子、木村多江の白百合女子高の先輩後輩コンビの葛藤が見せ場になる。
映画を見ていて、故伊丹十三がよみがえってきたような錯覚を覚えた。
いずれにせよ西川美和監督の才能に脱帽だ。