最近、理研の女性研究者の研究報告がイギリスの権威ある学術雑誌のNatureに掲載されました。
その内容が現在注目を浴びている「万能細胞」に関する新しい発見なので、マスコミが大騒ぎをしていました。
しかしその後この研究報告書がねつ造だったと非難を浴びています。意図的なねつ造で無いにしても報告書の中に重大なミスがあったのは間違いがないようです。
科学研究を職業にしていた私はこの問題を近代科学発展の歴史の中では時々ある些細な事件としてこのブログでは取り上げないことにしていました。
しかし数日前に旧友の白石 裕さんから新刊の本を頂きました。そしてその紹介記事を 新刊紹介:白石 裕 著「四則算と度量衡とSI単位と」、アグネ技術センター発行 と題して昨日掲載しました。
この本は近代科学の基盤になっているいろいろな単位の厳密な定義について、その歴史的ないきさつから丁寧に、しかし簡明に書いてあるのです。
私は、理研の女性研究者はまずこの本を読んでから実験に着手していれば良かったと感じました。
著者の白石 裕さんは東北大学の付属研究所だった選鉱製錬研究所で働いていました。物理化学の研究者でした。長く斎藤恒三教授の下で助教授をしていました。後輩の私は時々白石先輩の実験室に遊びに行きました。
高温の炉の中に試料を入れた白金の小皿を白金の鎖で吊るして、試料を加熱して行くとどのような重量変化が起きるかという研究をしていました。その実験装置は熱天秤というものです。
遊びに行くと「科学には厳密な実験が必要です」と何度もいいます。そして高温の炉内で空気が対流して熱天秤が上下に振れて厳密な測定が出来ないと云います。そしてしまいには熱天秤全体を真空容器に入れてしまうのだと云っていました。
この白石さんの上の教授は斎藤恒三先生でしたが、その後、私がドイツに留学している時、ヨーロッパの諸大学の視察の途中に私の住んでいたシュトッツガルトへ寄ってくれました。家内が接待して夕食にお招びしたとき話の合間に言ったことが忘れられません。「後藤君、研究で大事なことは実験を精密にして、決して急がないことだよ」と静かにいいます。そして、「実験実証主義こそが東北大学の伝統なのです」と言います。
さて表題の「理研の女性研究者の論文捏造の原因はただ一つです」ということに戻ります。
今回の事件の原因はたった一つです。論文に重大なミスをした女性研究者の個人的な原因なのです。
研究とは個人の責任とその独創性で行うものなのです。集団で行って、集団で責任を取るのは近代科学の歴史に無い日本独特なことなのです。理研の管理体制が悪いのなどという議論は全く間違いです。Nature という雑誌の審査に責任があるという意見もまったく的外れです。
どだいこの論文の共著者は10人ちかくもいたそうです。それがそもそもいけません。共著者は2、3人以下であるべきです。研究の核心を担ったのは2、3人以下が普通なのです。研究協力者を全部共著者にしてしまうのがそもそも厳密性に欠けています。こういう論文は内容が甘いのです。
今回の事件は女性研究者の個人が原因になっているのです。それ以外の原因の議論は日本の科学研究にとって有害な議論です。
理研の女性研究者はまだ若く優秀なのですから初心に返って一研究生として厳密な実験を急がずに行なっていけば必ずや大きな成果を上げると信じています。
すこし厳しいことを書いたので、下に花々の写真をお送りいたします。
それはそれとして、
今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)
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