外国の学会誌に掲載された論文が捏造だったと非難を浴びている女性研究者が久しぶりに記者会見をしました。
健康そうでなによりでしたが、会見の2時間半の間に自分の研究が厳密な科学的実験で完成したという説明が皆無だったのです。
どのような実験条件で万能細胞を作れば成功し、どのような実験条件でつくると失敗します。その実験条件を解明したのがこの研究論文の独創的な価値なのです。という説明がまったく無く、いきなり200回成功しましたと言い放ったのには驚いてしまいました。
自分独りで研究を企画し、解明すべき問題を限定して、それにふさわしい実験条件を設定して、研究にとりかかるのが実験科学の研究の王道です。
実験が成功しなければ、いろいろな実験条件で万能細胞の作製を試みて、成功する条件を確立するのが実験科学の常識です。
ですから研究の始めた頃は成功の確率が少なく、試行錯誤を積み重ねて行くうちに成功の確率が上がってくるものです。
こうして万能細胞の作製条件が確立し、その条件にしたがって他の科学者が実験を行えば成功するように研究論文を完成するのが当然なのです。
記者会見のなかでその様な話が一切出なかったのです。
そもそも、独自に研究を企画し、推進し、価値ある成果をあげる能力がある人と証明するのが「博士」という学位なのです。それは知的で高度な能力証明ですが、簡単に言えば自動車の運転免許証と同じことです。
自動車を運転出来ないのに免許証を与えてしまったようなことをしてしまったのが早稲田大学なのです。
早稲田大学はあわてて2007年からの280本の博士論文の再検証をすることを発表しています。(末尾の参考資料をご覧下さい)
いきなり個人的体験を持ち出して恐縮ですが、ここで日本の博士論文審査の欠点を指摘したいと思います。
私は1962年8月24日にオハイオ州立大学から、金属工学専攻のDoctor of Philosophy という学位を頂きました。
そして1964年7月13日に東京大学から工学博士の学位を頂きました。どちらも同じ分野の研究論文です。
この体験で驚いたこと東京大学の博士論文審査はオハイオ州立大学に比較して決定的に甘いということでした。
東大では審査員の教授5人が集まって私の話を少し聞いてくれて、ほとんど質問無く終わりました。審査が甘くて助かったと感謝しましたが、その違いの大きさには現在で驚いています。
オハイオでは5人の教授が審査委員になって、論文審査の前に5科目の厳しい研究への応用能力の試験があるのです。
5科目の講義で習ったことを応用して問題を解く能力が試験されます。筆記試験だけでなく口答試験があるのです。この資格試験(General Exam.あるいはQualification Exam.と言います)を合格すると博士論文を提出する資格が与えられます。
論文審査はまた5人の教授の前で研究の内容と成果、そしてどの部分に自分の独創性が含まれているか簡潔に20分くらいで話します。そしてその後1時間以上にわたって、5人の教授からの質問に答えるのです。
東京大学での学位審査ではそのような厳しさが皆無でした。
最後に意味深長な一文を付けます。「日本では博士論文の審査は教授の権利ですが、アメリカでは教授の義務なのです。権利は振り回さほうが立派です。義務は忠実に行うべきなのです」。文化の違いです。
今日は固い話になったので多摩川上流の桜の写真を3枚お送りいたします。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。
後藤和弘(藤山杜人)
==参考資料:早稲田大、博士論文280本を調査 不正の疑い指摘受け==
(2014年4月7日11時21分) 早稲田大は先進理工学研究科で学位を得た複数の著者の博士論文に不正の疑いが指摘されていることを受け、同研究科の全ての博士論文約280本について、研究不正の有無を調べる方針を決めた。調査結果を踏まえ、学位の取り消しを検討する。
同研究科は2007年に設置され、これまでに学位が授与された博士論文は計約280本ある。理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーが同研究科で学位を得た博士論文に画像の使い回しなどが指摘されて以降、同研究科の他の著者の博士論文でも、別の論文からの盗用の疑いなどがインターネット上で相次ぎ指摘されている。早大広報課は「全ての博士論文についてできる限り調べる」としている。
早大は先月、小保方氏の博士論文について学外の専門家らによる調査委員会を設置。他の著者についても学内での予備調査を進めている。その結果を受け、改めて調査委を設置するかどうか判断するという。(合田禄)(http://www.asahi.com/articles/ASG4735VTG47ULBJ004.html)
早稲田大学によると、小保方氏の博士論文審査は指導教員だった常田聡教授が主査を務め、他に早大の武岡真司教授、東京女子医科大の大和雅之教授、そして留学先の指導教官だったハーバード大のバカンティ教授が副査を担当した。小保方氏は審査に合格し、2011年に博士号を取得した。
ところがバカンティ氏は、内容を審査する前に論文を「もらっていない」と主張しているのだ。バカンティ氏の発言が事実だとすれば、早稲田大学の審査体制が問われることとなる。小保方氏の論文を巡っては、米国立衛生研究所サイトからの約20ページにわたるコピー&ペースト問題が浮上しているだけに「ザル審査」の疑惑も一層強まる。(http://www.j-cast.com/2014/03/20199793.html)
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