おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書「国民の天皇ー戦後日本の民主主義と天皇制ー」(ケネス・ルホフ)岩波現代文庫

2012-04-10 20:16:12 | 読書無限
 手術後の天皇の健康状態、さらには、皇太子一家、弟宮一家の動向など、皇室をめぐる話題は尽きない。マスコミから流れる情報(時には宮内庁から、あるいは別のルートから)は、週刊誌にとどまらず、一段とかまびすしい。
 現天皇の即位後、すでに24年。昭和天皇時代が遠く去る中(戦前・戦後という区分け、戦前の天皇制、戦争責任などが話題に乗らなくなった)で、今や世間でよくありがちな「嫁姑」関係にまつわる問題、親子関係、個人の尊厳に係わること、公・私の立て分け、「皇室典範」問題等々。これらに対して、一般国民はどのように思っているか、どう行く末を見つめているか・・・。
 一部の保守的な政治家や識者たちの思惑を超えて、国民の意識の中にある現在の天皇一家の姿。「日本国憲法」に定められた戦後の「象徴」天皇制のあり方にまで、議論が及ぶことになりかねない現状だと思うが、誰も触れようとはしない(と見える)。いっときほどの話題性・現実性に乏しいというのが本当のところ。あえて触れないのか。
 この書は、2001年にアメリカで刊行された「The People'Emperor」の日本語版として2003年に出版され、2009年に「岩波現代文庫」に収められたもの。初版からすでに10年近く経っているが、内容的には大変興味深い分析となっている。
 ともすれば、天皇(制)に係わる論考は、時には左右の対立(歴史観の相違)によるイデオロギー的なものか、反対に脱イデオロギーの皇室礼賛的な感情移入の甚だしいものになりがち。その点で、1966年生まれ、新進気鋭の外国人(英語圏)学者によって書かれたことが、かえって読者に先入観なしの「天皇像」を導き出してくれている。
 政治家や宮中側近の日記、週刊誌、さまざまな刊行物などによく目を通して、それらの言動を詳しく分析し、一切の先入観を排して天皇像(戦後、日本国民がどのように象徴天皇制度の中の天皇及び皇太子達の姿を受容していったか)を明らかにしていく。特に興味深いのは、60年代から70年代にかけての戦後の転換期(安保闘争、高度経済成長、革新知事などの進出・・・)に、右派政治家・評論家たちが国家的な危機感を持ちつつ、戦前の天皇制文化を復活させていこうとする(その中での挫折も含めて)動きが詳細に描かれていることだ。中でも、現憲法の象徴天皇の姿こそ、本来の(古来からの)天皇像のあり方だ、と主張していく流れの中で、生粋の保守派は、今の天皇(当時の皇太子)の姿を苦々しく思っていたことなど詳らかにしていく。
 現天皇と皇后の婚約から結婚、出産、育児とその過程のたびに、多くの国民に好意的に受け入れれてきた天皇一家。一方で、国家との関係において、戦前と戦後との断絶はなかった父君・昭和天皇の実像。
 戦前と変わらぬ政治家の「内奏」問題、外国の君主制(特にイギリス王室)との比較、など丹念な資料分析は読み応えがある。今だからこそ改めて考えさせられる「天皇」像であった。
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