ギャラリービブリオより柱時計入り夢野久作が帰る。今回は予定通り、時打ちのゼンマイをできるかぎり緩めに巻いてもらい、ようやく制作当時に企んだとおりに時を打ってくれた。作中のぶーーんという表現は、むしろこれから打とうという時に小さくするが、普通に考えればボーン、という音のことであろう。久作のこと、多少なまっているのかもしれない。 六世中村歌右衛門の色紙届く。これで市川右太衛門とそろった。 夕方KさんがR子さんのためにビブリオで購入したプリントをKに届けるというが、ここは二人以上でないと入店できないので付き合う。早めにいって一時間で帰る、といっていたのだが。 先日T千穂で飲んだ後、おとなしく帰れずR子さんが店を終わって来ているのではないか、と永代通りの向かいの店内をじっと眺めて立ち尽くす後姿は、帰らぬ息子を岸壁で待つ二葉百合子の如しであった。その熱心さを他のことに使え、という話である。8時にKに行くと、この時期混んでいる。Kさんは先日来、どういうわけか飲む割には平静を保ち、乱れることがない。ところがシラフだとただシナビタ小父さんで面白くも可笑しくもない。どれだけつまらないかというと、パチンコの景品の小さなサラミをポケットから取り出し齧りながら「外は寒いけど中は暖かいな」。なんだそれは?しかしそれでも周囲からすれば、大人しいほうがまだマシである。結局一時間ということにはならず居続けることに。だったらカラオケでも、ということで久しぶりにKさんの『兄弟舟』。必ず“胸の谷間に”と歌う。私はKさんのあまりに気持良さそうな歌いっぷりに、大嫌いであったカラオケが好きになった。私は『回転禁止の青春さ』。とくに一番は本気で歌う。“俺の選んだこの道が 廻り道だと云うのかい 人の真似してゆくよりか これでいいのさ このままゆくさ ゴーゴーゴー レッツゴーゴー ゴーゴーゴー レッツ ゴー 回転禁止の青春さ”3番は“俺はゆくのさマイペース ひとり唄って ひとりでほめて”昔友人に、せめてお前らだけでも俺の作品をほめろ。と強要したのを想いだす。 結局三人でKへ。このあたりから本来のKさんに戻ってしまった。欲望を限られた貧弱なボキャブラリーで恥ずかしげもなく吐露し続ける62歳。おそらくKさんは“男”高倉健のどこが良いかを解することなく死んでいくのは間違いがない。
過去の雑記
HOM