夕方、近所にある『深川』編集部に『貝の穴に河童の居る事』を持っていく。隔月刊の地元のミニコミ誌だが、昔作家シリーズを6回だったか連載したことがある。永井荷風はまだしも村山槐多まで。2冊目の本はこの時の文章が元になっている。 風濤社のSに渡す物があり、ちょうど鏡花展をやっているので、通っているという千代田図書館に行く。近所の人達がやってくれる出版祝いの打ち合わせがあるので、さっとしか見ることができなかったが、大きなパネルの『貝の穴に河童の居る事』の出版年が昭和6年のところ9年になっていた。関東大震災で東京が被害にあい、それをきっかけに鏡花は旅に出て、それにもとづいた作品を何編も書く。その房総物の一編がこの作品である。柳田國男に演じてもらった鎮守の杜の翁は、油差しと灯心を携え、神社の灯籠に灯をともす役割である。その灯籠に昭和何年、と作られた年が刻まれていたが、それを鏡花がこの神社を訪れた年か出版年に換えたら面白いかな、と考えたが別に面白くないので結局消した。数字が覚えられない私が、それで覚えていた。 数日経つが、未だにちゃんと読んでいない。文章としては私ほどこの作品を熟読した人間はいないであろう。鏡花は己の世界に読者を引っ張り込む為に、あらゆる術を使う作家だと、嫌になるほど実感させられた。本作はそこに鏡花の幼児性とでもいうものがプラスされている。サインでも失敗すれば私の物として気安く読めるが、もったいなくてちゃんと開いて読んでいないのである。 8時閉店のK本に間に合う。たまたま紙袋に一冊入れていた。「何それ?」「ダイナマイトが入ってます」。中学生の頃だろうか、『ミュージックライフ』のゴシップ欄で読んだ、旅客機の中で二ューアルバムを鞄に入れたサンタナのメンバーが、酔っぱらってそう叫んで大騒ぎになったというの思い出していた。
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