父の反対を押し切り、東京に出てきて20数年。42歳、独身の陽子(菊池凛子)は夢破れ、
引きこもりとなり、孤立した生活をしていた。ある日、従兄の茂(竹原ピストル)がや
ってきて20年断絶していた父(オダギリジョー)が亡くなったとの知らせを受ける。
故郷である弘前へ向かうことに逡巡しながらも、茂家族とともに車で弘前へ向かうこと
にした陽子だが、途中のサービスエリアで子どもに気をとられた茂一家に置き去りにさ
れてしまう。所持金もわずかしかない陽子、しかも携帯は壊れてしまい、茂と連絡がと
れず、ヒッチハイクをすることに。引きこもりだったため、人との距離がわからず、う
まく話すどころか、声さえ出せない。しかし、出棺は明日の正午。何とか北上しようと、
陽子は踏ん張ろうとする。
毒舌のシングルマザー(黒沢あすか)、人懐こい女の子(見上愛)、謎のライター(浜
野謙太)、心優しい夫婦(吉澤健、風吹ジュン)などに出会っていく。ときどき、幻の
父が現れ陽子の前に立ちはだかる。だが、一歩ずつ少しずつ、陽子は進んでいく。出棺
時間は迫る。果たして、陽子は実家にたどりつくことができるのか?
いろいろ考えさせられるが、わずか2日だけの話で起こることのたくさんを受け止めな
がら進むヒロインをほぼセリフがないにも関わらず物語を成立させられるのは菊地凛子
ぐらいかもしれない。怪しいシーンもある。菊池凛子がこの作品を機にさらに前進して
いく予感。現在までの菊池凛子の集大成と言ってもいい。
人生の岐路。これまでが敗北であったとしても、ずっとそれが続くとも思えない、そう
思わせてくれる作品。風吹ジュンが演じるご婦人が素敵。ああいう年の取り方をしたい。
そして、携帯は今やなくしてしまうと生活が立ちいかなくなるので、連絡帳も併せて持
っておきたい。そしてそして何より!女性のヒッチハイクには必ず危険が付きまとうと
いうことも忘れずにおきたい。
社会とのつながりが切れると、わかっていたことを忘れてしまう可能性があるというこ
と。
東北の今の景色も確認できる。それもまた、目を伏せられない事実である。
出演は他に、仁村紗和、篠原篤など。監督は、これまで人間ドラマを丁寧に描いてきた
熊切和嘉。この作品もまた、市井の人々の生活に密接する。