30年もの間、ほとんど家の外の出ることなく、庭の観察し、そこに存在する生命を見守り続けてきたという伝説画家、熊谷守一=モリ。そのエピソードをベースに、晩年のある一日をフィクションとして描いた作品。
昭和49年の東京・池袋。守一の住む家の庭には草木が生い茂り、虫や猫が住みついている。そこで毎日、生命の見守りをするのが日課。ゆるやかに時間が進むが、そこに守一を撮るカメラマンや看板の文字を書いてほしい人など毎日、人がやってきて妻の秀子との二人暮らしもにぎやかだった。
山崎努が熊谷守一になりきって、そっくりの演技。飄々と、そしてすっくりと立つ。そこに、妻を演じる樹木希林の存在で和む。映画界を代表するベテラン二人が初共演で、熊谷夫婦を見事に表現する。
妻が庭散策に出かける夫に「行ってらっしゃい」と言い、夫は「行ってきます」と言う。その距離感が魅力的。文化勲章を辞退するエピソードに驚愕!
毎日暇を持て余して、スマホをサクサクさせていることばかりが幸せではない、そんなことがなくとも人は人とつながれる。今の時代だからこそ、このゆるやかな時間の過ごし方がうらやましくもある。
蟻を眺める姿勢が個性的。でも大人になると、気取ってしまってできなくなる。それがまた人を引き付ける。
監督は『モヒカン故郷に帰る』『横道世之介』の沖田修一。出演はほかに、加瀬亮、光石研、青木崇高など。