この作品は、松尾スズキ作・演出により、1991年に悪人会議プロデュースとし
て初演された。98年には松尾が悪人をテーマに創り上げる「日本総合悲劇協
会」公演で再演。そして2012年にBunkamuraシアターコクーンで再々演され
たもの。今回は12年ぶり4度目の上演となり、サブタイトルを≪歌舞伎町黙示
録≫と題し、台本をリニューアル。フクスケが入院する病院の警備員・コオロ
ギとその妻で盲目の夫婦を軸となっている。
とある病院の怪しい警備員コオロギ(阿部サダヲ)は盲目の妻サカエ(黒木
華)に歪んだ愛情を抱いているが、サカエは献身的にコオロギを支えていた。
そんなある日、コオロギの勤める病院に薬害被害者で長い間監禁されていたフ
クスケ(岸井ゆきの)が保護されてくる。彼を監禁していた製薬会社の御曹司
であるミスミツヒコ(松尾スズキ)は逃走し、行方不明に。
エスダヒデイチ(荒川良々)は、精神のバランスを崩して行方不明となった妻
のマス(秋山菜津子)を14年も探し続けてとうとう、東京までやってきた。歌
舞伎町で出会ったホテトル嬢のフタバ(松本穂香)と自称・ルポライターのタ
ムラタモツ(皆川猿時)の協力のもと、マスの行方を追っていた。
裏社会で暗躍してきたコズマ三姉妹は、貧しい境遇から歌舞伎町の風俗で一発
当て、飛ぶ鳥の勢いである。ひょんなことからマスと出会い、新たに生み出し
た“一度死んで生まれなおすゲーム”輪廻転生プレイが大ヒット。政界にまで進
出しようと企んでいる。
彼らの情念は、目まぐるしく動き、多くの人を巻き込んで想像もしない方へと
向かっていく。
薬や食品添加物による薬剤被害や、光化学スモッグなどが社会問題となってい
た昭和の時代。さらに今も形を変えて存在する宗教信仰や女性や障害者への差
別を巧みに取りいれた問題作品。少し前の作品でありながら、終わりがない論
争や社会世相を過去と現在を織り交ぜながら物語は進む。初演から33年。普遍
的なテーマが観客を引き込んでいく。悲哀の中にある美しさと狂気を織り込ん
だダークエンタテインメント。何も関係ないと思われるエピソード3つが同時
に展開するが、最後には繋がっていく。
裏社会で暗躍するコズマミ三姉妹のヒロミ、エツ、ミツは伊勢志摩、猫背椿、
宍戸美和公というベテラン陣が演じる。コオロギの愛人に内田滋。他にも、町
田水城、河井克夫、菅原永二、オクイシュージと、大人計画の団員とゲストが
豪華にキャスティングされ、パワーアップして上演されている。
阿部サダヲと黒木華夫婦の丁々発止は、脱力感と内に秘めた激しさが漂う。荒
川良々の頼りないが、のちに爆発する不気味さを秘めた演技、秋山菜津子は二
役ともいえそうなほどの暗と陽を演じ分ける。皆川猿時は存分にはじけ、松本
穂香はこの役でひと皮むけそうなほどの良い役をもらっている。松尾スズキに
ついては、掴みどころがない演技を通り越し、存在自体が不思議だ。
そして、岸井ゆきの。この人は、舞台でも恐るべき実力を発揮する。狂気まで
も感じてしまう変幻自在の人。身体の力も高い(映画ではボクサーを演じて日
本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞いている)。ちなみに、岸井ゆきのが
前半終了間近に歌い上げる歌をよく聴いてほしい。ラップ風で歌詞がおちゃら
けているのだが、自分の日常に刺さる部分があるかもしれない。当方にはここ
で吹き出してしまうツボがあった。それだけにここにも、過去と現在の世相が
反映された取り組みがあると感じた。
会場はロームシアター京都。回り舞台など、劇場の特徴を生かしながら芝居を
楽しめる構造となっている。昭和の時代を描く世界。台詞は不適切な言葉も飛
び交う。舞台ならではの演出・脚本だ。現代では言葉の扱い方が変わっている
が、水面下では変わっているものはないのではないかとも思う。それが、この
作品が普遍的であるとも言える所以である。
東京公演は既に終了し、ロームシアターメインホールでの公演は8月15日
(木)まで←京都のお盆、暑いですが頑張って。
その後、8月23日(金)から26日(月)まではキャナルシティ劇場での福岡公
演が控える。